2025 年 16 巻 1 号 p. 1_148
(緒言)
パーキンソン病は動作緩慢を主体に筋固縮・安静時振戦を呈する神経変性疾患であり,運動症状はドパミン作動薬の投与により軽快するが,根治療法は存在しない進行性の難治性疾患である.
病理学的にはレビー小体が出現し,その主要構成成分がα-シヌクレインであること,α-シヌクレインが病態に深く関与しており,更に伝播により病変が広がっていくことが想定されている.
パーキンソン病ではドパミンニューロンを中心としたカテコラミン作動性ニューロンが変性することが知られているが,カテコラミン作動性ニューロンが比較的選択的に障害される理由は明らかでない.
近年,ドパミンの代謝産物がαシヌクレインの凝集に関与している可能性が指摘されている1).また,我々は電気刺激によりカテコラミン濃度が変動することを報告しており1,2),αシヌクレインも神経活動依存性に変化すると考えられ,日本神経学会で発表した3).昨年度は正常モデルで検討したため,今年度はパーキンソン病モデルラットを作成し検討した.
(研究方法)
・実験は正常ラット3頭の内側前脳束にカテコラミン神経毒である6-hydroxydopamine(6-OHDA)をstereotaxicに注入しパーキンソン病モデルラットを作成して行った.
・タングステン電極付き透析プローブを黒質に刺入し,電気刺激前,刺激中,刺激後(各々90分)で黒質の細胞外電位測定,細胞外液採取を行った.
・細胞外液の採取はpush-pull microdialysis法により行い,αシヌクレイン測定はELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)法,カテコラミン測定は高速液体クロマトグラフィー法を用いて行った.
刺激前,刺激中,刺激後の群間比較は一元配置分散分析(ANOVA)により行い,事後比較はDunnet法を用いた.相関解析はスピアマンの順位相関係数を用いた.
(結果)
1)カテコラミン・αシヌクレイン濃度
刺激前の黒質αシヌクレイン濃度・カテコラミン濃度に対する,刺激中,刺激後の比を算出した.刺激後にレポドパは有意に低下し,刺激中のレポドパ,刺激後のDA(ドパミン),DOPAC(ジヒドロキシフェニル酢酸)は低下傾向であった.
αシヌクレインは刺激中に低下傾向であった.
2)カテコラミンとαシヌクレインの関係
刺激中のみαシヌクレイン濃度とドパミン(ρ=0.56,p<0.05),DOPAC(ρ=0.57,p<0.05)との間に有意な相関を認めた.
・刺激後にはαシヌクレインとカテコラミンの間に有意な相関を認めなかった.
(考察)
刺激中・刺激後ともDAやDAの代謝物であるDOPACは刺激前と比較し低下傾向で,αシヌクレインも低下傾向であった.また刺激中のみ,αシヌクレインとDA・DOPACとの間に有意な相関関係を認めた.
電気刺激により,DAやDOPACなどのカテコラミンとαシヌクレインは連動して変化することが示唆された.DAは運動症状発症に重要な神経伝達物質で,αシヌクレインは病理学的に神経細胞に沈着するが,刺激によるDAの変化が病理学的変化にも寄与している可能性が示された.
(倫理規定)
本実験は国立大学法人千葉大学動物実験規定にもとづく動物実験委員会に承認された(動5-243).