2025 年 16 巻 1 号 p. 1_158
(緒言)
団塊の世代が75歳以上となる2025年を目前に控え,地域包括ケアシステムの構築を推進することは喫緊の課題であり,地域包括ケア病棟をはじめ医療機関に勤務する看護職はその推進のために今までにない専門性や実践能力が求められている.このため,看護学科社会貢献委員会では,文献検討や令和3年度学長裁量研究により,地域包括ケアを担う看護職に求められる実践能力1)について明らかにした.また,看護学科では千葉県で働く看護職の研修ニーズを調査2)しており,看護職が少ない施設ほど研修受講率が低いという課題を明らかにしている.
そこで,本研究は,先行研究の知見を基に「地域包括ケアを担う看護職に対する実践能力向上プログラム(以下,プログラム)」を開発し,千葉県内の中小規模病院に勤務する看護職を対象として試行的に実施・評価することを目的とした.
(研究方法)
1.プログラムの開発
令和5年度看護学科社会貢献委員を中心とした11名の看護学科教員による研究チームを発足し,プログラムを考案した.本プログラムによる実践能力の変化(研修の効果)を測定するため,21項目からなる「地域包括ケアを担う看護職に求められる実践能力の自己評価項目(以下,自己評価)」を作成した.
2.プログラムの試行と評価
千葉県内200床未満の病院の地域包括ケア病棟に所属し,臨床経験が3年以上あり,地域包括ケアを推進することが期待されている看護師(1病院につき2名以内)を対象に,2023年12月~2024年1月にプログラムを行い,評価インタビューを2024年3月に実施した.集合研修参加前後のアンケート,評価インタビューの内容,自己評価の評価結果を分析した.
(結果)
1.開発したプログラムの概要
プログラムはSTEP1:患者・家族への支援能力を高める,STEP2:地域包括ケアシステムを維持・発展させる連携調整・マネジメント力を高める,の2部構成とし,それぞれ「オンデマンド講義の視聴」「事前学習(ワークシートの記載)」「集合研修(グループワーク)」により構成した.
2.プログラムの試行と評価
8病院から看護師15名の研究参加を得た.職位は,主任7名(46.7%),スタッフ6名(40.0%),師長2名(13.3%),看護師経験年数は平均14.6年(±6.2),地域包括ケア病棟経験年数は平均3.6年(±1.6)であった.全員がSTEP1と2に参加した.事後アンケート結果である「プログラム全体の満足度」は,「満足」の割合がSTEP1では80%,STEP2では100%であり,「今後の看護に活かせるか」はSTEP1,2ともに9割以上が「そう思う」と回答した.両STEPにおいてディスカッションのすすめ方やワークシートへの改善案の意見を得た.
(考察)
本プログラム参加者の傾向として,看護師経験年数は豊富にあるものの,地域包括ケア病棟の経験が浅く,これまで獲得している看護実践能力に加え,地域包括ケア病棟特有の実践能力向上へのニーズがあることが確認された.結果から,総合的に満足度の高いプログラムであることが示唆されたが,改善の余地があり,今後は参加者を増やし,実践の変化等,アウトカム評価に基づくプログラムの有効性を検証していくことが課題である.
(倫理規定)
本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(申請番号2023-22).研究参加の任意性の保障等,倫理的配慮を実施した.
(研究成果の公表)
本研究の一部を第44回日本看護科学学会学術集会(2024年12月熊本市にて開催)にて発表した.