2025 年 16 巻 1 号 p. 1_159
(緒言)
研究者らは,2018~2022年度にかけて科学研究費補助金による助成を受け,看護師の臨床判断に基づくフィジカルアセスメント(以下,PA)能力育成に向けた教材開発に取り組み,その成果として教材アプリを開発した.この教材アプリはPA技術修得の一助として期待されるが,その教育効果についての検討はされておらず,評価は課題として残されている.そこで本研究では,PA技術修得を目的とした授業において本教材アプリを活用し,その有用性や効果を検証することを目的とした.
(研究方法)
対象:A大学にて2023年度開講の看護技術論Ⅱ(PA技術)を履修中および履修後の1~2年次生
方法:PA技術学修中の1年次生,終了後の2年次生に対して,アプリを活用した腹部PA実施を依頼した.アプリの難易度やユーザビリティに関してMicrosoft Formsによる調査を行った.ユーザビリティは先行研究1)を参考に7項目(好感度,役立ち間,内容の信頼性,操作のわかりやすさ,構成のわかりやすさ,見やすさ,反応性)とした.
アプリ概要:6日前にイレウスで入院した患者.3日前に胃管が抜けて昨日より食事が開始となった.本日のバイタルサインは,体温36.8度,脈拍65回,血圧118/64 mmHg 呼吸数16回である.検温の場面で,食事開始後の状況を観察するとともに,腹部のPAを実施する.
この状況に対して,問診から始まり,視診,触診,聴診を実施.各段階で選択肢があり,いずれかを選びながらフォーカスアセスメントを進める.最終的に実施結果をリーダーに報告し終了.全20通りのアセスメントがあり,報告内容に応じて,不足している内容や間違っている内容が指摘される.
学生の操作履歴は,選択肢の各ポイントでの表示ビュー件数と,そのポイントの平均所要時間が残る.
分析方法:PA実施は報告内容毎の割合で算出した.Microsoft Formsによる調査は,各質問項目の得点を学年で比較検定した.自由記載は質的に分析した.
(結果)
対象学生は,1年次生24名,2年次生30名であった.教材アプリの実施状況として,利用回数は1~3回が49人(90.7%)と最も多く,初回に適切なPAを実施した学生は,22人(41.5%)であった.アプリの難易度については「ちょうど良い」が33人(61.1%),「やや簡単」が16人(29.6%)であった.今後も使用したいかについては47人(87.0%)が肯定的に回答した.ユーザビリティ7項目は,いずれも5段階中3.5~4.3であり,見やすさと反応性に学年間で有意差が見られた.自由記載では,良かった点では,【腹部PAとして学んだことの復習】【実際のPA実施のイメージ形成】【アプリ使用による学習の簡便性】【アプリの構成】が,改善点では【事前説明の不足・わかりにくさ】【動画再生の遅さ】【選択肢の少なさ・物足りなさ】【解答の不足】が,それぞれ4カテゴリー抽出された.
(考察)
結果から,本アプリの難易度は2年次生の方が簡単と答えた学生が多かったものの,1年次生は75%がちょうど良かったと答えたことから,演習の中で活用するには適切な難易度であると考える.またユーザビリティ評価からは,反応性と見やすさに学年間での有意差はみられたものの,反応性については使用時の回線への負荷による影響と思われる.本アプリの構成は概ね適切であり,本教材アプリを活用することにより,現実の患者への実践機会が限定されるPA技術の実際のイメージ化をはかり,技術修得の促進に有用であることが示唆された.
(倫理規定)
千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を受け実施した(承認番号2023-28).
(利益相反)
本研究内容に申告すべきCOI状態はない.
(研究成果の公表)
本研究の一部は,日本看護学教育学会第34回学術集会にて発表した(2024年8月20日,東京都).