千葉県立保健医療大学紀要
Online ISSN : 2433-5533
Print ISSN : 1884-9326
令和5年度学長裁量研究抄録
2023年度に千葉県内医療機関に入職した新人看護師が感じる困難
田口 智恵美内海 恵美大塚 知子大内 美穂子坂本 明子三枝 香代子浅井 美千代
著者情報
研究報告書・技術報告書 フリー

2025 年 16 巻 1 号 p. 1_160

詳細
抄録

(緒言)

 本研究は,看護師の国家資格を得て,千葉県内の病院に入職した新人看護師が,職場で抱えている困難を明らかにし,本県の臨床現場に則した看護基礎教育の在り方を検討することを目的に実施したものである.

(研究方法)

対象:2023年度に県内病院に入職した新人看護師.

方法:県内病院名簿記載の約290施設のうち,2022年度に同調査実施時に看護管理者の協力同意を得られた52施設の対象者に無記名式Webアンケート調査を実施した.

期間:2024年1~2月.

内容:対象者の属性(選択式),看護師として働いて困難を感じた項目(厚生労働省新人看護職員研修ガイドライン改訂版を参考に作成,選択式),印象に残っている困難体験,看護基礎教育課程で教えてほしかった内容,学生時代に身につけておくべきだったと思う看護実践能力,卒業後にあったらよいと思う支援(以上自由記述).

分析方法:量的データは単純集計,自由記述は設問ごとに代表的な記述内容を抽出した.

(結果)

 1,150名に配布し,310名から回答を得た(回収率27%).

1.対象者の属性 在籍した学校種は,4年制大学が157名(50.6%),看護系専門学校が142名(45.8%),高等学校専攻科が11名(3.6%)であった.所属施設規模は病床数300床以上が228名(73.6%),200床以上300床未満が45名(14.5%),100床以上200床未満が25名(8.0%),100床未満が12名(3.9%)であった.

2.看護師として働いて困難を感じた項目 半数以上が困難を感じたと回答した項目は114項目中21項目であった.そのうち7割以上の看護師が困難を感じた項目は「死後のケア(74.5%)」「人工呼吸器の管理(70.3%)」,「決められた業務を時間内に実施できるように調整する(71.6%)」であり,次いで「複数の患者の看護ケアの優先度を考えて行動する(69.3%)」「体動,移動に注意が必要な患者への援助(例:不穏,不動,情緒不安定,意識レベル低下,鎮静中,乳幼児,高齢者等への援助)(64.8%)」「気管挿管の準備と介助(61.9%)」であった.

3.印象に残っている困難体験 死後のケアでは家族対応や死と向き合うことが挙がった.人工呼吸器の管理ではアラーム対応,器械の取り扱い,学ぶ機会の少なさなどが挙がった.業務管理では,ケアの多さや多重業務でやりたいケアが終わらない,複数患者のアセスメントが追い付かない,予定外の指示で計画の修正ができない,などが挙がった.不穏の患者に対しては暴れたときの対応や状態のアセスメントなどが挙がった.

4.看護基礎教育課程で教えてほしかった内容

  記録の書き方,報告の仕方,点滴の準備・作成・実施・管理,採血,多重課題,優先順位の考え方,コミュニケーションスキル,心電図の読み方,急変時の対応,薬の作用・副作用,業務の実際,家族対応,経管栄養,エンゼルケア,などが挙がった.

5.学生時代に身につけておくべきだったと思う看護実践能力

  急変時の対応と判断については134名(43.2%)が挙げた.そのほか,点滴に関すること,採血,導尿,ドレーン挿入・装着物のある患者への清潔ケア,創傷処置,優先順位の考え方,などが挙がった.

6.卒業後に学校からあったらよいと思う支援

  同窓会,転職支援,苦手な看護技術の練習,などが挙がった.

(考察)

 「死後のケア」「人工呼吸器の管理」は,田口らの本学卒業生を対象とした先行研究ではともに9名中4名が困難を感じたと回答しており,割合は半数に満たなかった.対して,「決められた業務を時間内に実施できるように調整する」は先行研究では9名中7名が困難を感じており,今回の結果から本学卒業生だけでなく千葉県内の新人看護師にとっても困難な実践であることが明らかになった.また,学生時代に身につけておけばよかった看護実践能力は,今回の結果では急変時の対応と判断を記述した対象者が4割を超えた.上述の先行研究でも「急変時の対応・状況判断力・技術力」が挙がっており,急変時の対応については課題であると考える.

(倫理規定)

 研究者所属施設倫理委員会の承認を得て実施した.(承認番号2023-13)

著者関連情報
© 2025 千葉県立保健医療大学
前の記事 次の記事
feedback
Top