2025 年 23 巻 p. 23-35
越路吹雪は戦後の日本にミュージカルとシャンソンを定着させた、昭和を代表する舞台女優、歌手である。1968年に日生劇場で行われた「ロングリサイタル」以降、リサイタルではイヴ・サンローラン、ニナ・リッチのパリのオートクチュールドレスを着用し続けた。その舞台衣装は、彼女の舞台に一層の輝きを与えるとともに、当時の日本におけるパリのオートクチュール受容とも相まって、人々の憧憬の的になった。
舞台芸術は〈ライブ〉をひとつの魅力とするものであり、舞台上で俳優やダンサー、歌手などが身に纏っていた衣装の多くは、これまで消耗品として扱われてきた。そのため舞台の幕が下り、役目を終えたあと、廃棄の道をたどる舞台衣装も少なくない。しかし一方で、価値づけされ、収集、保存の対象となり、ミュージアムで展示公開されてきたものもある。
本報告では、2024年に早稲田大学坪内博士記念演劇博物館で開催された「生誕100年 越路吹雪衣装展」を通して、舞台衣装の資料価値について考察を試みるものである。