Crustacean Research
Online ISSN : 2189-5317
Print ISSN : 0287-3478
ISSN-L : 0287-3478
ヨモギホンヤドカリPagurus nigrofasciaの繁殖生態
五嶋 聖治和田 哲大森 寛史
著者情報
ジャーナル フリー

1996 年 25 巻 p. 86-92

詳細
抄録

ごく最近,新種として記載されたヨモギホンヤドカリの分布と繁殖生態を,模式産地近くの函館湾葛登支の潮間帯において調べた.本種は潮間帯上部の潮線付近の転石域にパッチ状に分布し,季節的移動は見られない.4月から5月にかけて,雄が産卵直前の雌が入っている貝殻をはさみ持つ産卵前ガード行動が観察される.交尾・産卵直後にガード行動は終了する.抱卵雌は4月から2月の間に観察される.抱卵雌の出現時期とその後の卵の発達状態から,主な産卵期は5月で,雌は1年に1回産卵し,約9カ月間という長期にわたって抱卵することが明らかになった.交尾前ガード行動はホンヤドカリ属に普通に見られる行動であるが,長期にわたる抱卵期間は同地に生息する同属他種,あるいは他所に分布する同属のそれと比較しても非常に長く,きわだった繁殖特性といえる.このことは本種の属するホンヤドカリ属は,種類数の豊富さとともに,その繁殖特性にも多様な面が含まれることを示唆している.

著者関連情報
© 1996 日本甲殻類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top