Drug Delivery System
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特集 “がんDDS製剤の臨床応用”  編集:濱口哲弥
T―DM1の臨床開発
牧山 明資
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2017 年 32 巻 2 号 p. 119-125

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抄録

T―DM1は、トラスツズマブにリンカーでチューブリン重合阻害剤のDM1を結合させた抗体薬物複合体である。HER2陽性細胞にinternalizationを介して取り込まれたのちに、細胞傷害作用をもったDM―1を放出し細胞死を引き起こす。これまでにトラスツズマブ既治療のHER2陽性乳がんを対象として保険適応を取得したが、その後の臨床開発は容易な道のりではなく失敗の連続である。その主な原因の1つは、T―DM1がトラスツズマブ結合可能ながん細胞以外には効果を発揮できないことにあり、この画期的な薬剤送達システムがある意味で災いしたといえよう。すなわち、がん細胞のHER2 statusが一様ではないheterogeneityな腫瘍や、抗HER2治療といった修飾によりHER2 statusに変化を生じるHER2 loss現象を考慮せぬままでの開発が行われ、T―DM1は十分な効果を示せなかった。今後はこの点に留意したうえでの新たな抗体薬物複合体の開発が望まれる。

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© 2017 日本DDS学会
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