抄録
肝臓は生体に有毒なアンモニアの代謝を担う重要な臓器である。アンモニアは肝細胞の尿素サイクル(Urea Cycle)において、複数の酵素の働きにより無毒な尿素へと変換され、尿に排出される。しかしながら、尿素サイクルを構成する酵素に遺伝子変異をもつ患者では、アンモニア代謝に異常が生じ、高アンモニア血症を示す。現時点において尿素サイクル異常症の唯一の根治療法は生体肝移植であるが、ドナーの負担が大きい課題が存在する。一方、幹細胞研究の発展により、ヒトiPS細胞等の多能性幹細胞を用いてオルガノイド(organoid)と呼ばれる生体組織と類似した三次元組織を人為的に形成する技術が開発され、移植医療の新たな細胞源として注目されている。本稿では、尿素サイクル異常症に対する研究進展を概説するとともに、ヒトiPS細胞由来オルガノイドを用いた新たな再生医療の可能性について論じる。