抄録
1980年代初頭、原因不明の免疫不全症候群がアメリカを皮切りに世界中に蔓延した。まだ原因も治療法もわからないころは、エイズを発症したらほぼ1年以内に命を落とす、いわゆる現代の黒死病として恐れられた。しかし、2020年現在では、早期発見・早期治療を行えば、非感染者とほぼ同等の寿命を全うできるようになった。なぜなら、現在使われている抗HIV薬は強力かつ副作用が少なく、非常に飲みやすいためである。ここに至るまでには、治療薬開発の長くて苦しい道のりがあった。今回、30年以上にわたる抗HIV薬の開発の歴史をまとめてご紹介する機会を得、あらためてこれまでの治療薬研究の道のりを振り返りながら、今後の治療方法の方向性を考えていきたい。