抄録
MPS(Microphysiological System)は、微小流路による灌流やヒト細胞を用いた三次元的な組織の配置を可能としたことから、高い生体模倣性を有するシステムとして期待されている。2022年に制定されたFDA近代化法2.0の中で、創薬における動物実験の義務付けが廃止され、MPSが動物試験代替法の一例として明示されたことは、医薬品開発における評価体系が従来の動物モデル中心から、ヒトの生理機能を模倣した新しい技術へと移行しつつあることを示す大きな転換点である。今後、特異性の高い抗体や標的部位の微小環境に大きく影響を受ける細胞などを用いたモダリティにおいては、適切に動物実験と動物実験代替法を選択・活用することが求められる。本稿では、「動物実験代替法」および「ヒト生体模倣系」という観点から、アカデミアでのMPS開発の現状と今後の展望について議論する。