昭和歯学会雑誌
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無歯顎者の咀嚼時の切歯点, オトガイ, モダイオラスの運動経路の比較
山縣 健佑北川 昇山縣 徹哉望月 美佳下平 修河野 勇治徳富 清美
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1997 年 17 巻 3 号 p. 233-245

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抄録

無歯顎者1名について発色ガムにより咀嚼能率をモニターしながら咀嚼時の切歯点とオトガイおよび, モダイオラスの運動経路を比較検討した.発色ガム咀嚼中の被検者の顔面正面と右側貌を2台の高速テレビカメラ (V-120, nac社製) から同一ビデオテープに録画した.50回咀嚼後のガムを色彩色差計 (CR-300, Minolta社製) で測色し, クロマティク指数 (a*値) を記録し, さらに同一ガムを50ストローク咀嚼させた後に再び測定を行い, 計100ストロークを録画した.咀嚼開始後の16秒間 (初期 : 1F) と各段階の終了直前の16秒間 (中期 : 1L, 終期 : 2L) について画像解析装置 (イメージデータ : ID-8000型, nac社製) で各標点をオートトラッキングし, 3次元座標を求め, 立体構築した.運動経路解析ソフトにより以下について計測した. (1) 計測区分開始点から終了点までの距離累計 (TL). (2) 開始点と終了点間の直線距離 (SL). (3) TLとSLの比率 (T/S), (4) 経路を含む直方体の体積 (Cub). (5) 進行方向に対する方向変更角度 (TH).以上の結果, 切歯点とオトガイの運動経路の形は類似しているが, オトガイは咀嚼中期には, 運動範囲が中心咬合位時の位置を前上方に超えている.1サイクルの所要時間は, 初期より中期で有意 (p<0.01) に増加し, 中期から終期では有意に (p<0.01) 減少した.サイクル単位では, 切歯点よりオトガイの方がCubは初期には小さいが, 中期, 終期では大きい.また, THは推移は一致しているが, 切歯点よりオトガイの方が大きい.閉口相では切歯点よりオトガイの方がCub, T/S, THは大きく, TL, SL, Vは小さい.モダイオラスの閉口相では, 初期に比べて終期ではCub, TL, T/S, THが減少した.これらから, 咀嚼の進行に伴い, 運動経路がより滑らかで収束することが示唆された.

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