抄録
皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の患者10名から得た皮膚生検組織19検体につき,p53蛋白の発現およびp53遺伝子変異の有無を検討した.免疫組織化学染色にて3名,7検体でp53(DO-7)陽性細胞を認めた.生検組織より抽出したDNAを用いてp53遺伝子変異のhot spotであるエクソン5~9につきPCR-SSCP(polymerase chain reaction-single strand conformation polymorphism)法を行ったが,いずれも変異は検出されなかった.変異型p53蛋白は熱ショック蛋白(HSP)70と結合するため抗HSP72/73抗体を用いて免疫組織化学染色にてHSP72/73の発現を検討した.しかし,p53とHSP72/73発現の間には相関が認められなかった.従って免疫組織化学染色でのp53陽性例は変異型p53の発現ではなく,正常型p53蛋白の過剰発現によると考えた.以上よりCTCLの一部では正常型p53が過剰に発現されており,腫瘍の増殖をむしろ抑性する方向に働き,経過を遷延させている可能性が示唆された.