抄録
インスリン様細胞増殖因子(insulin-like growth factor,IGF)とその結合タンパク(binding protein,BP)の相互作用をin vitroの系,即ち培養ケラチノサイトを用いた実験系と動物モデル(in vivo)の系を用いて創傷治癒の観点から検討した.まず培養ヒト・ケラチノサイトにIGF-IとBP-1を単独ないし同時に添加して5日間培養し,細胞増殖に及ぼす影響を観察した.IGF-Iの細胞増殖促進能は単独では0.4ng/ml以上で認められ,BP-1単独の促進作用はほとんど認められなかった.しかし,IGF-I(2ng/ml)とBP-1(2ng/ml)を同時に投与するとIGF-I単独投与群に比較し,増殖促進能は2.6倍となった.次に正常家兎の創傷モデルを用いて,IGF-IとBP-1の創傷治癒に対する作用を検討した.家兎の耳介内側に直径6mmの全層皮膚欠損創を作製し,手術直後に1回だけIGF-IとBP-1を投与し,閉鎖創として7日目に屠殺して創傷部位を組織学的に検討した.創傷治療促進能を再上皮化,肉芽組織面積,血管数の3つの要素について評価したところ,IGF-I(10μg)単独投与群に比較して,IGF-I(10μg),BP-1(33μg)同時投与群で有意に創傷治療が促進した.BP-1がIGF-Iの作用を増強する機序については明らかではないが,細胞外でIGF-Iと結合することにより,IGFの分解を防ぎ,また細胞表面への接着を容易にしていることが考えられた.また,今回の実験結果からIGF-IとBP-1が創傷治癒促進剤として,将来は臨床使用が可能なことも示唆された.