1997 年 107 巻 14 号 p. 1855-
臨床的に水疱様外観を呈するに至らないまでも被覆皮膚が萎縮性で皺を有し,病理組織学的に真皮が浮腫状で弾性線維の消失を認め,続発性anetodermaを合併したと考えられる毛母腫の1例を経験した.そこで毛母腫続発性anetodermaの合併頻度,発症機序を明らかにする事を目的として,過去10年間に当教室で経験した毛母腫75症例80病変について病理組織学的に再検討した.その結果,80病変中51病変にHE染色で腫瘍塊直上の真皮に浮腫,裂隙を認めた.上記51病変に対して施行したワイゲルト―ファンギーソン染色では35病変(44%)においてこの部に一致して弾性線維の減少ないし消失を認め,続発性anetodermaを合併していた.続発性anetodermaの合併率は10歳から20歳代に多く,タ至イ,上肢,下肢に生じた毛母腫に高率であった.病理組織学的に腫瘍塊直上の真皮におけるトルイジンプルー染色に異染性を示す肥満細胞はanetoderma合併群で増加しており,anetoderma非合併群と比較し,統計学的に傾向差を認めた(p=0.012).以上の結果から毛母腫においては水疱様外観を呈するに至らないまでも組織学的に続発性anetodermaを合併する頻度は予想以上に高いこと,anetodermaの発症機序に肥満細胞が関与する可能性が示唆された.