日本皮膚科学会雑誌
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マウスvibrissaeを用いた毛包組織器官培養法の確立とその応用
神藤 敏正坪井 良治
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1997 年 107 巻 6 号 p. 769-

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抄録

毛成長を定量的に解析するin vitroの評価系として,マウスvibrissaeを用いた毛包組織器官培養法の培養条件を検討し,次のような結果を得た.①3~15日齢のマウスから採取した毛包の毛球部のDNA合成は一定であり,毛球部は12日齢マウスまで増大を続けた.②個々のvibrissaeの部位別の検討では鼻側よりも眼側の左右2例の方がDNA合成が高かった.③毛伸長および毛球部DNA合成はともに培養96時間まで直線的に増加した.培養96時間後も毛球部の形態は正常であった.④培養条件は,通常(5%CO2-95%air,37℃)のものよりも高酸素(5%CO2,95%O2)かつ低温度(31℃)の方が毛母細胞の変性がなく,毛球部の正常構築が保たれていた.⑤培養液への牛胎児血清の添加は無添加でも1~20%添加しても毛球部のDNA合成にほとんど影響を与えなかった.これらの結果から,9日齢のB6C3F1マウスの眼側縦2列vibrissaeを血清無添加,95% O2-5% CO2で31℃,72時間培養することは,毛包の器官培養系として極めて有用であると考えられた.そこで,本条件下に各種の抗癌剤あるいはサイトカイン等の毛球部DNA合成への影響を比較検討した.その結果,抗癌剤ではcytosine arabinoside,mitomycin C,endoxan,methotrexateおよびadriacinなどで強いDNA合成抑制が,サイトカインではtumor necrosis factor-α,interleukin-1αでDNA合成抑制作用が認められた.一方,hepatocyte growth factor/scatter factorは,調べた物質のなかでは唯一毛球部のDNA合成を促進させた.以上,マウスvibrissaeを用いた器官培養法は,①材料が容易に入手出来ること,再現性と定量性において優れること,②血清の影響を受けないこと,などの点でin vitroの評価系として優れていると考えられた.そして,③この培養法は脱毛や発毛作用を有する物質のスクリーニングなどに有用であることが各種抗癌剤,growth factorを含むサイトカインなどを添加した系で示された.

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© 1997 日本皮膚科学会
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