抄録
糖尿病に合併した下肢の末梢血流不全症例のスクリーニングを目的として,末梢皮膚還流圧(skin perfusion pressure:以下SPPと略)測定を行い,その有用性を検討した.検査対象は110例(男性53例,女性57例)で,平均年齢は65.3歳(中央値は66歳),HbA1cの平均値は7.63%であった.これらの症例のなかで,臨床的に末梢血流不全があると考えられたものは89例であった.また血流不全にともなう潰瘍や壊疽などの足病変を合併したものは40例で,観察期間中に何らかの形で切断を余儀なくされたものは17例であった.SPP測定によって得られた検査値を,上下肢血圧比(ankle brachial pressure index:以下ABPIと略)における検査値と,単回帰分析を用いて比較を行い,その相関関係を検討した.更にReceiver Operating Characteristic Curve(以下ROC曲線と略)を用いて,虚血の有無,虚血にともなう足病変の有無,切断の有無の項目によってグループ分けし,各々の検査における有病率,特異度について比較を行うとともに,各々の項目におけるカットオフ値を求めた.その結果,回帰分析では,SPPはABPIに対して比較的良好な相関関係を示した.ROC曲線では,虚血の有無,虚血にともなう足病変の有無,切断の有無,いずれの項目についても,SPPはABPIよりも検査の感度,特異度ともに優れていた.各項目におけるSPPのカットオフ値は,虚血の有無では60 mmHg,虚血にともなう足病変の有無では45 mmHg,切断の有無では30 mmHgで,臨床所見と治療転帰についてはカットオフ値とよい相関をみた.糖尿病に合併する下肢の血流不全症例のスクリーニングにおいて,SPPは有用な検査法のひとつと思われた.