2009 年 119 巻 3 号 p. 309-314
尋常性魚鱗癬は,四肢伸側を中心とした鱗屑とドライスキン,そして掌蹠の皮膚紋理増強を特徴とする,最も頻度の高い遺伝性魚鱗癬である.最近,本症はフィラグリン遺伝子変異により発症することが明らかにされた.フィラグリンは,ケラチン線維を凝集させることで角層の形成に働くほか,その分解産物が天然保湿因子として働くため,皮膚バリア機能の維持と保湿に重要なタンパク質である.従って,フィラグリン遺伝子の変異によりフィラグリンの産生が減少すると皮膚バリア機能の破綻とドライスキンをきたすようになる.本症の遺伝形式はautosomal semidominantで,homozygoteやcompound heterozygoteの患者はheterozygoteの患者と比べ,より重症の臨床像を呈する.また,興味深いことに,フィラグリン遺伝子変異はアトピー性皮膚炎の重要な発症因子であることも示された.現在のところ,本症の治療は対症療法が主体であるが,病因が同定されたことで,フィラグリンをターゲットとした新規治療法の開発が精力的に進められており,近い将来の臨床応用が期待される.