日本皮膚科学会雑誌
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放射性チロジン使用に依る色素細胞チロジナーゼ活性の観察
久木田 淳
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1958 年 68 巻 12 号 p. 915-

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抄録

色素細胞の所在,形態及び機能は過去約1世紀に亘る間,種々論議,検索された問題であるが,今日なお多くの未解決点が残されている.夙くBourquelot,Bertrand(1895)は菌類の一種にTyrosinase(以下Tと略記)の存在することを発見,これに続き,Furth(1901)はTがメラニン形成に於て受持つ役割を示唆したが,その後Bloch(1917)がDopa-oxidase(以下Dと略記)の作用に依る,色素細胞の自所性色素産生を証明したことは,色素細胞のメラニン形成に関する研究を特に大きく進歩させた.併しながら更にその後に至りHogeboom,Adam(1942)が動物黒色腫の組織にTの存在を証明して以来,メラニン形成にTの持つ意味が再び重要視され,殊にアメリカ皮膚科学者の一群,即ちFitzpatrick,Becker,Lerner,Montgomery(1950)の紫外線照射人体健常皮膚に於けるTの組織化学的証明により,Tとメラニン形成との関係が明らかにされるに至つた.殊にこれ等の学者は1つの研究組織を作り,“Biology of Normal and Atypical Pigment Cell Growth”を主題として,色素細胞の形態学,発生及びメラニン形成の化学,色素細胞腫瘍の臨床,治療を討論し,今日この問題に関する研究の進歩の原動力になつている.又この間メラニン形成に関する詳細な総説及び研究が発表された.これを世界的に見るに,メラニン形成とT活性,人体色素細胞の形態学,ホルモンと色素形成との関係,色素細胞の胎生学的知見,人体色素細胞の体外培養,臨床上の色素異常症等が今日色素研究の主題をなしている.著者はアメリカOregon州のPortlandのFitzpatrick教授の下で,下等脊椎動物として家鶏,哺乳動物としてマウス,更に人間の種々の器官,即ち皮膚,毛嚢,眼球網膜色素上皮,脈絡膜に存在する色素細胞,又色素細胞腫瘍として色素性母斑及び悪性黒色腫,その他色素細胞の異所性増殖を主徴とする所謂Melanocytosisに於ける色素細胞のT活性をc14-放射性チロジンを使用したCover-Slide法及びAutoradiography法によつて測定して色素細胞研究に寄与するところあらんとした.以下その大要を報告せんとするものであるが,その前に色素細胞,色素形成,特にT活性に関する一般的事項に就て記すことゝする.

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© 1958 日本皮膚科学会
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