高等脊椎動物に於ける網膜色素上皮の生化学的研究は比較的少数であり,その本態は近年迄不明の点が多かつた.併し乍ら一般には色素上皮の色素はフエノール誘導体の酵素的酸化による重合体であるメラニンであるとする説が有力であつた.その根據の第1はAlbinismus totalisの際色素上皮に色素の欠如が観察されることで,この場合表皮毛髪等のメラニンも同様に形成されない事実より網膜色素上皮の色素も遺傳的酵素学的観点よりメラニンと同一の機序により形成される可能性が大である事である.第2の根據は1923年Miescherが鶏,モルモツト,家兎の網膜色素上皮に“dihydroxyphenylalanine(dopa)oxidase”の存在を組織化学的方法により証明した事実である.一方皮膚,毛髪に於ける色素も古くはBlochのdopa oxidase説が廣く認められていたが,近年に至り,Fitzpatrick等,Kukita等はdopa oxidase活性は実にtyrosinase活性である事は明らかにして該部のメラニンはtyrosine-tyrosinase反應により形成される事を明らかにした.