日本皮膚科学会雑誌
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皮脂腺およびその周辺の非特異性エステラーゼに関する組織化学的研究
久保 縁
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1962 年 72 巻 5 号 p. 391-

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抄録

近年,酵素組織化学の進歩に伴い,種々の組織内代謝関係をこの面から解明せんとする試みが盛んになつてきたとはいうものの,まだその術式,判定解釈などに幾多の困難と疑問が残されているものが多い.こゝでとりあげる酵素の組織化学もその1つである.従来,脂肪酸の代謝に関連ある酵素としてエステラーゼが主として検討されてきた.即ち本酵素は脂肪酸とアルコールとのエステルを分解或いは合成することに関与している.Gomoriは広義のエステラーゼをアリエステラーゼとコリンエステラーゼとに2大別し,更に前者を高級脂肪酸とグリセリンとのエステルであるグリセライドを分解するリパーゼ,並びに低級脂肪酸と1価アルコールのエステルを分解する非特異性エステラーゼ(狭義のエステラーゼ)とに分類した.こゝで問題になるのはアリエステラーゼである.しかし,リパーゼと非特異性エステラーゼは画然と区別されるわけではなく,非特異性エステラーゼもグリセライドを分解し得るし,またリパーゼも簡単な低級脂肪酸エステルを分解し得る.何れをより一層分解し得るかという程度の差だけで,本質的の差は認められていない.しかしリパーゼについていえば,その組織化学的証明法といわれるGomoriのツイーン法は満足すべきものではなく,その特異性についても疑問があるといわれている.ところがNachlas & Seligmanが非特異性エステラーゼ(以下エステラーゼと略す)の組織化学的証明法として,β-ナフチル醋酸を基質に用いるアゾ色素結合法を考案し,その後a-ナフチル醋酸,ナフトールAS醋酸,インドキシル醋酸等を基質とする変法が考案されて以来,脂肪酸代謝に関連する酵素の組織化学的証明の1つとして,本酵素がb\々とりあげられるようになつてきた.即ち本酵素が人および動物の肝,腎,膵,生殖器等に広く証明されることが明らかになつてきた.一方,人の皮膚組織のエステラーゼについては,Porterが人の皮膚組織の抽出液が短鎖脂肪酸のエステル,トリプチリンを分解することを化学的に見出して以来,皮膚における本酵素の存在は夙に推測されてはいたが,これを組織化学的に証明し,比較検討を行つたのはMontagna,Findlay,Braun-Falco,Steigleder & Loffler,Wells,Nicolaides & Wellsらである.本邦においては著者らが,主として皮脂腺(以下脂腺と略す)について既に数度の学会で発表している他,最近管原が健常皮膚,角化異常および汗腺分泌異常を伴う皮膚疾患について本酵素活性の消長を検索しているにすぎない.これら諸家の所見を要約すると,何れも実験に用いた基質の相違によつて結果は一様ではないが,皮膚におけるエステラーゼ活性の意義として,これを角化の過程と密接に関連づけているようである.一方,これら諸家の脂腺における所見をみるに,本酵素の活性は必ずしも認められておらず,Montagna,Findlay,Steigleder & Lofflerらは僅かに脂腺の周辺部未熟細胞層にのみ活性を認め,Nicolaides & Wells,菅原らは脂腺に活性は殆ど認められないと報告

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© 1962 日本皮膚科学会
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