日本皮膚科学会雑誌
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黒色上皮腫(Melanoepithelioma Ota)および青色母斑におけるメラニンのDegradationを中心とする電子顕微鏡的研究
小幡 宏子
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1968 年 78 巻 8 号 p. 669-

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抄録

黒色を呈する皮膚腫瘍に上皮性要素の増殖に因るものと,神経櫛起源性要素の増殖に因るものとの別を立てられたのは,故太田正雄教授(1940)を以て嚆矢とする.すなわち故太田教授は,上皮性要素の増殖に因つて生ずる黒色の腫瘍を黒色上皮腫と呼び,これに良性,前癌性,悪性の別を設けられた.その後の諸家の研究により,これら各階程に属するもののリストが豊富になり,そこに見られる諸現象に関する知見も甚だ詳かになつた.近年の電子顕微鏡的並びに生化学的研究によつて,メラニンの生成並びにその上皮細胞への授与に関しては,分子レベルにいたるまで種々詳かになつている.またMassonらの唱えた表皮二元説,すなわち表皮はマルピギー細胞とメラノサイトとの共棲体であるとする説も近時広く認識され,メラノサイトから表皮細胞にメラニンが与えられにくくなり,その結果メラノサイト内にメラニンが蓄積される状態をpigment blockadeと呼ぶことも,次第に広く行なわれつつある.しかしながらそれらの研究は主として正常メラノサイトや神経櫛起源性腫瘍について行なわれたものであつて,黒色上皮腫に関する近代的研究は比較的乏しい.黒色上皮腫のメラノサイトを見ると,樹枝状の呈するそのメラノサイト内に見られる光顕で明視しうるメラニンの顆粒は,この所見からメラノゾーム(melanosome)1個の大きさより遙かに大きいものと考えられるが,Drochmansが表皮内melanophagesの所見として,これとおぼしきものについて記載している以外に,この所見を電顕的に記載,意味づけたものを知らない.本論文は種々の黒色上皮腫につきメラノサイトを電顕的に追求し,またその所見を青色母斑細胞並びにいわゆる担色細胞のそれと比較,メラノサイト内におけるメラノゾームのdegradationにつき論じようとするものである.メラノサイトに関する用語に関しては,1965年開催されたThe Sixth International Pigment Cell Conferenceにおいてアンケートにしたがつて提案された用語がある.それによれば従来melanin granuleと呼ばれたものは,melanosomeとなり,従来melanosomeと呼ばれたものおよびpremelanosomeと呼ばれたものの双方がpremelanosomeとなつている.メラノゾームの発見者の1人清寺教授も必ずしもこれにしたがつていないが,自家所見の記載には一応そこで提案された用語にしたがつた.但し担色細胞(chromatophore)に対してはmacrophageの用語が提案されているが,その総てを貪喰細胞としてよいかに関しては多少の疑義があるので,macrophageの語を避け,従来の担色細胞をそのまま用いた.

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© 1968 日本皮膚科学会
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