日本皮膚科学会雑誌
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Behcet病における非特異的皮膚反応亢進の組織病理学的研究
矢崎 喜朔
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1970 年 80 巻 7 号 p. 447-

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抄録

Behcet病の原因は現在なお不明であり,その診断は臨床症状の分析によらざるを得ない.すなわち口腔粘膜のアフタ,外陰部潰瘍,前房蓄膿性葡萄膜炎等の眼症状,皮膚の結節性紅斑様皮疹(以下EN型皮疹と略す),または血栓性血管炎(以下T-A型皮疹と略す)が慢性再発性に認められる疾患であり,上記4症状以外に辺縁症状として発熱,倦怠,関節症状,消化器症状,心血管系症状,神経系症状等を呈し,その臨床像は多彩である.Behcet病患者における皮疹の発現は口腔粘膜のアフタ性変化とともに経過中にはほとんどの症例にみられると考えられる.これらの皮膚症状は紅斑,腫脹,浸潤,膿疱等により構成され,EN型皮疹,T-A型皮疹,毛ハV炎様あるいは痤瘡様皮疹(以下F型皮疹と略す),またはpapulo-pustular,papulo-nodular,nodular manifestationのごとく表現され,3日ないし4日から2週間くらいまでの短期間で消退し,同じ場所あるいは部位を変えて再発を繰返す.上記皮疹とともに注射部位の化膿傾向,すなわち注射針穿刺部位に紅色丘疹より膿疱を生じやすい傾向が認められ,75%~90%の高率にみられる.これはBehcet病における皮膚反応の異常な亢進を示している.1941年JensenはBehcet病患者において生理的食塩水(以下生食水と略す)による皮内反応も含めて,全べての皮内反応が亢進し,滅菌した針で皮膚を突いても24時間後に容易に紅暈を有する膿疱を生じ,しかも陰囊,口腔粘膜にも同様の現象が見られることを報告した.Blobnerも1937年注射針穿刺または注射にて皮膚の特異的な過敏状態に注目し,これをPathergyによると考えた.KatzenellenbogenはTuberculin,Staphylococcus vaccine,Leishmanin,Trichophytin,生食水皮内注射をBehcet病3例に施行し,これら全てに同様に注射部位に直径1~5cmの紅斑,腫脹が生じたこと,針穿刺でも紅斑,膿疱を形成したことを報告した.また症例1においてPirquet scalpelの掻破では反応を生じなく,症例3においては16時間後に膿疱を形成したことを記している.その後も生食水皮内注射による反応の亢進はHaensch,Berlin,氏原ら,Nazzaro,その他の人々により報告強調されているが,これはBehcet病患者に認められる非特異的皮膚過反応状態(Non-specific skin sensitivity,unspezifischen Hauthyperreaktivitat)であり,Kobner現象とも考えられている.西山らはBehcet病を多原因性の刺戟に対してneuro-vasculo-mucodermalに最も反応しやすい個体の反応状態,すなわちBehcet状態と称すべきものと考え,その皮膚表現としてEN型皮疹,T-A型皮疹,F型皮疹,注射部位の無菌的膿疱形成,非特異的皮膚反応の亢進,手術創の無菌的化膿状態などが挙げられ,いずれも診断の参考となると述べている.生食水皮内注射による反応の亢進はBehcet状態のひとつの表われであり,刺戟,反応場所が一定で再現性をもつている.この反応は常に陽性ではなく,症状の再然時には増強し,緩解期には軽減する.Behcet状態は血清蛋白分画の異常,血清ムコ蛋白の増量,グリコプロテインの増量,血沈値促進,CRP陽性,血清Sialic acid

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© 1970 日本皮膚科学会
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