日本皮膚科学会雑誌
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いわゆる趾間白癬の生態学的研究
五島 應安
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1970 年 80 巻 8 号 p. 491-

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抄録

俗にいう水虫athlete's footは,古くより皮膚科医はいうに及ばず,一般素人の間でも数多く論ぜられてきた課題であり,関係論文は枚挙にいとまない.しかしながら今日なお,感染,予防,治療の面に多くの未解決の問題が残されている.それは一つには,趾間に発生するほとんどすべての炎症性病変が臨床上水虫の診断を導き,その原因が単に白癬菌にのみ帰せられてきたことに起因すると考える.かかる安易な概念は,時として無用の治療に基づく症状の増悪をさえ招来する.趾間白癬の臨床所見と病巣よりの白癬菌分離率との間に存在する矛盾は多くの人によつて指摘されるところである.Ajelloらは,871名の成人男子について,59.9%が趾間に何らかの臨床的異常をみたにかかわらず,白癬菌の検出率は18.1%にすぎないこと,また,白癬菌を検出した趾間の1.7%において臨床的には全く異常がみられなかつたことを報告している.Marples,M.らもNew Zealandにおける387名の学童調査で,69.3%に何らかの趾間病変を認めたが,白癬菌の検出率は,病的趾間より7.5%,一方臨床的に正常と思われる趾間よりも2.5%に検出されたことを報告し,いわゆる趾間白癬において白癬菌を唯一の病原菌とみなすことに疑問を投げかけている.かかる矛盾は,その他にも数多く指摘されたところであろうが,それについての積極的解答を試みんとしてなされた報告はほとんどないといつてさしつかえない.僅かに,Kligmanが成書において,とくに証拠を示していないが,趾間白癬はその初期には白癬菌の関与があるにしても,臨床と症状の進展にもかかわらず,白癬菌の消失することは稀でなく,かかる場合には,その他の因子,とくに細菌の果たす役割りを重要視すべきであろうと述べているのと,Marples,M.が白癬菌検出者中,自覚症を訴えるものに,Staphylococcus aureus(以下黄色ブ菌)が多く検出せられたことから,趾間白癬の進展における白癬菌と黄色ブ菌の共存に意義を見出さんとした報告があるにすぎない.しかし,この報告も自覚症を中心とした臨床的記述と,自覚症の有無に基づいた被験者相互での黄色ブ菌の分離率の差に有意性を見出そうとしたところに問題を残した.本論文は,趾間に棲息する細菌のおのおのを準定量的にあらわすことによつて,生態学的立場よりこれらの問題に解決を与えんとして試みられた実験成績の報告である.

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