日本皮膚科学会雑誌
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表皮代謝におよぼす0.1%ビタミンA酸軟膏の影響について
麻生 和雄岡崎 忠靖
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1972 年 82 巻 2 号 p. 71-

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抄録

1)0.1%A酸軟膏をモルモット皮膚に塗布した結果,表皮細胞はまず著明なmitosisをもって反応,ついで酵素活性の増加が続いたのち3日後,表皮のhyperplasiaが最高に達した.この間基底細胞のturn overは著しく高められ,オートラジオグラフィー所見でとりこまれたH3-thymidineは4~5時間で角層に達する所見を得た.2)A酸軟膏の塗布を連日続けてゆくと表皮のA酸によるこのような反応性は次第に失われ,7~14日では対照と比べむしろ低下した.これらの反応性の上昇,低下はA群(アルコール,アルデヒド)のうちA酸が最も著明であった.すなわちA酸軟膏塗布により,表皮は早期の反応性の亢進および後期の反応性低下の2つの反応を示した.3)14C-A酸軟膏塗布により,尿中14Cの排泄,およびオートラジオグラフィーでA酸の経皮吸収を証明した.尿中14Cは14C-A酸グルクロネートであった.尿中に急速に大量排泄される割には,表皮に留まるA酸は少量であった.しかし14C-A酸軟膏を連日塗布してゆくことにより,表皮内14C-A酸はやや増加した.すなわち経皮吸収されてから表皮細胞の核に影響を与えた後,早急に代謝排泄されると推定しえた.表皮に認められた14C-A酸は特に核分画に24,48時間,5,14日後集中するという成績は得られなかった.またin vitroで14C-A酸およびA酸カリウム塩は表皮ホモジネートで代謝されなかった.4)1.in vitroでA酸およびそのカリウム塩は,表皮脂質合成酵素を0.25μM以上で著明に抑制し,その抑制は添加A酸濃度に比例した.5)A酸およびそのカリウム塩はin vitroでcalf thymus DNA type Ⅰとは結合せず,部分的にdenatureされたDNAとはわずかな結合性を示した.6)A酸軟膏のいわゆる抗角化作用を,表皮に与える初期の反応からは,A酸が生理的なstimulantとして,表皮細胞のmitotic phaseを亢進させる結果,functional phase(角質生成)が相対的におさえられる結果と解し,軟膏連用による後期の反応からは,むしろ表皮の反応性の低下作用から説明し得ると考えた.

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