日本皮膚科学会雑誌
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家庭塵埃からの白癬菌の分離―特にM. canis感染症を中心として―
山本 泉
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1985 年 95 巻 13 号 p. 1447-

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抄録

白癬に罹患した人や動物から環境的に白癬菌が散布されることは知られているが,罹患個体の病変の推移と環境から分離できる白癬菌量との関係は,検討されていない.また,環境からの白癬菌の分離は,公共施設や集団生活の場では試みられているが,家庭環境中の菌の存在についてはほとんど検討されていない.著者は,白癬患者の家庭の塵埃をアクチジオン・クロマイ加サブロー培地平板に散布培養し,Microsporum canis感染症患者の21家庭全てからM.canisを,M.canis以外の白癬菌による白癬患者の22家庭中10家庭から原因白癬菌を分離した.対照とした白癬のいない12家庭では病原白癬菌は全く分離しなかった.塵埃から分離された菌量は分離係数で表わし,各家庭の塵埃中の菌量を比較し,また治療による菌量の変動も検討した.M.canis感染症患者家庭では,広汎な頭部白癬(ケルスス禿瘡)または病猫の存在時には,治療初期に分離係数は高いが,罹患個体の病変の軽快にともない,係数は急速に減少し,最終的に64日~114日で分離されなくなった.患者の病変が軽快しても,病猫の治療が不成功の場合には,係数は高いままで減少しない.家族内感染の有無により,治療初期の分離係数に差をみとめた.訪問調査では,絨毯などから直接に菌を分離できた.Trichophyton rubrumとTrichophyton mentagrophytesによる生毛部白癬や足白癬の患者の家庭塵埃からも原因菌が分離できるが,分離成功率はM.canis感染症に比し低率であった.この場合も分離係数は治療により低下,消失する.塵埃からの白癬菌の分離は,罹患した人や動物がその病変の状態によって家庭環境中にどの程度の菌を散布しているかを示す示標となると考える.

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© 1985 日本皮膚科学会
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