日本皮膚科学会雑誌
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疣贅状表皮発育異常症におけるヒト乳頭腫ウイルス関連組織抗原について
石地 尚興
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1989 年 99 巻 6 号 p. 683-

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抄録

疣贅状表皮発育異常症(epidermodysplasia verruciformis以下EVと略す)患者の癜風様皮疹より粗く分離したヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus以下HPVと略す)で家兎を免疫し,抗体を作成した.この抗体(以下抗EV抗体と略す)を用いてEV患者の癜風様皮疹,皮膚悪性腫瘍,またEV以外のウイルス性疣贅,HPV感染と無関係と考えられる皮膚腫瘍について酵素抗体法,immunoblot法による検索を行った.EV以外のウイルス性疣贅の酵素抗体法でDako社B580抗体と同様の陽性所見が得られたこと,immunoblot法でHPVの被殻蛋白と考えられる分子量約58Kdの蛋白に陽性所見が得られたことにより,この抗体はDako社B580抗体と同様にpapillomavirus genus specific antigen(以下Pgs抗原と略す)を認識すると考えられた.しかし,EVにおける癜風様皮疹についての酵素抗体法では,Dako社B580抗体では陽性所見が得られないウイルス粒子の存在しない基底細胞の核や細胞質の一部,有棘細胞の細胞質や核の一部に陽性所見が得られ,また,同様にウイルス粒子の存在しない皮膚悪性腫瘍の腹腔内転移巣においても細胞質および核の一部に陽性所見が得られた.また,immunoblot法でも癜風様皮疹および皮膚悪性腫瘍においてDako社B580抗体では陽性所見が得られない分子量約42Kd,33Kdの蛋白に陽性所見が得られた.このことは,この抗EV抗体がPgs抗原以外に,EVに特異的なHPV関連組織抗原をも認識することを示している.そこでHPV型の異なるEV患者12例の癜風様皮疹あるいは悪性腫瘍について酵素抗体法を行い,このHPV関連組織抗原の局在を調べた.その結果,この抗原は感染しているHPVの型に関係なくEV患者12例すべてに発現しており,しかも典型的なEVの癜風様皮疹以外に,ウイルス粒子の産生のない老人性色素斑様の皮疹や,悪性腫瘍の転移巣にも発現していたが,EV以外のHPV感染症では発現していなかった.この抗原がEVにおける発癌にはたす役割は不明であるが,EVの発癌機構におけるHPVの関与を裏付けるものと考えた.また,この抗EV抗体はEVを特異的に認識し,しかもウイルス粒子産生のない皮疹まで広汎に検出しうるため,EVのマーカーとしても有用と考えられた.

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© 1989 日本皮膚科学会
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