病巣中5-S-CD測定による悪性黒色腫,ことに早期病変の生化学的診断法の開発を志し,以下の興味ある結果をえた.1)melanotic melanomaの病巣中5-S-CDの平均値は原発巣では202.4ng/mg(80.6~821.4),転移巣では214.0ng/mg(96.2~520.0)で,原発巣の各病型間,原発巣と転移巣間に有意の差はなく,殆どの例が100ng/mg以上の高値を示した.2)初期病変を有するSSM例では腫瘤部中5-S-CDの平均値は171.1ng/mg(98.6~293.6),色素斑部のそれは734.5ng/mg(320.0~1666.3)であった.一方,前駆病変を有するALM例では腫瘤部の5-S-CDの平均値は166.9ng/mg(80.6~322.5)とSSMの腫瘤部のそれと有意差はないが,色素斑部のそれは1.8ng/mg(0.7~3.6)ときわめて低値であった.3)NM早期病変と鑑別を要する黒子(色素細胞母斑),dysplastic nevus,Spitz母斑,Bloch Ⅱ型黒色上皮腫や青色母斑など,SSMと,ときに鑑別が必要な色素性基底細胞上皮腫やボーエン病,ALMやLMMの早期病変との異同が問題となる単純性黒子,足底色素斑,爪甲色素線条,老人性色素斑などの病巣中5-S-CD値はmelanotic melanomaのそれに比して低値で,殆どの例が50ng/mg以下であった.4) 1)~3)の結果から,病巣中5-S-CD値が100ng/mg以上の高値を示せば,色素性腫瘍が黒色腫である可能性がきわめて大であると考えられた.また,SSM in situの病巣中5-S-CD測定による生化学的診断は可能であるが,ALM in situやlentigo malignaの診断に資することは少ない.5)amelanotic melanomaの病巣中5-S-CD値の平均値は原発巣では31.1ng/mg(30.2~32.0),転移巣では18.9ng/mg(13.6~28.7)であった.無色性腫瘍が病理組織学的に悪性像を示し,病巣中5-S-CDが色素細胞母斑のそれとほぼ同様の値を示せば,無色性腫瘤をamelanotic melanomaと診断可能と思われた.6)melanotic melanoma原発巣の病巣中cys-dopasの百分率はほぼ一定で,各病型間に有意差はなく,cys-dopasの約80%が5-S-CDであり,黒色腫の生化学的診断には5-S-CDのみを測定すれば良いことを再確認した.
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