スポーツ現場では,アイシングは急性外傷の応急処置などに用いられてきたが,最近では,試合や練習後の疲労回復や故障の予防措置を目的にも行われている.一方,身体トレーニング期間中に毎回運動後に活動筋を冷却することで,筋の適応が抑制されることが報告されている.しかしながら,このトレーニング効果の抑制が生じる冷却温度は不明である.そこで本研究では,筋力トレーニングを継続中,毎回運動後に活動筋を冷却する際,適用した冷却温度帯の違いが,トレーニングに伴う筋および血管の適応に及ぼす影響について検討することを目的とした.健康な大学生(男性18名,女性11名)に,8RMの運動強度で8回のリストカール運動を5セット行う筋力トレーニングを週3回,6週間行わせた.毎回トレーニング終了後に運動側前腕前部を10℃温度帯の定温剤で20分間冷却した被験者10名を10℃冷却群,20℃温度帯の定温剤で20分間冷却した被験者9名を20℃冷却群,残りを冷却を行わない非冷却群としてトレーニング効果を比較した.トレーニングにより最大筋力は,20℃冷却群では非冷却群と同様に有意な増加を示したが,10℃冷却群では増加しなかった.一方,筋肥大に対する運動後冷却の影響はみられず,すべての群において筋持久力の向上および血管機能の改善は観察できなかった.これらの結果は,冷却温度を緩和することで,運動後冷却によるトレーニング効果の抑制が生じなくなる可能性を示唆した.冷却温度の緩和により,トレーニング効果の減弱を招かず,その他の生理・心理的メリットが得られるのであれば,アスリートにとってアイシング利用の有益な情報となり得る.