デサントスポーツ科学
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研究論文
運動時の筋ポンプ作用が脳循環動態およびその調節機能に及ぼす影響
小河 繁彦齋藤 祥太郎渡邊 裕宣片山 敬章
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2022 年 43 巻 p. 80-88

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抄録

サイクリング運動開始時には,筋ポンプ作用により,右房圧,一回拍出量,心拍出量の顕著な上昇が観察されることが報告されている.この心拍出量の急激な増加は,脳の過剰灌流を引き起こす可能性がある一方,運動開始時の筋ポンプ作用による脳循環調節への影響は調査されていない.我々の先行研究において,筋ポンプ作用による中心血液量の急激な増加は,心肺圧受容器を刺激し交感神経活動を低下させることを報告している.本研究では,心肺圧受容器刺激によって誘発される全身血管抵抗の減少が運動開始時の急激な心拍出量の増加を緩衝し,適切な脳血流調節に貢献するとの仮説を立てた.11名の健常な若年者は,最大筋力の40%による等尺性ハンドグリップ運動( IHGex)後の活動筋のカフ圧増加による筋代謝性受容器反射の亢進( PEI条件)および条件なし( CON条件)で,自転車エルゴメーターによる 20 W(60 rpm)の1分間サイクリング運動を行った.運動中,平均動脈圧( MAP),心拍出量( Q),中大脳動脈血流速度( MCA Vm),および後大脳動脈血流速度( PCA Vm)の連続測定を行った.サイクリング運動により, MAP,Q,MCA Vm,PCA Vmは有意に増加した(定常状態, P < 0.001).しかしながら,運動開始直後は,両条件とも MAPが安静時よりも低下することが観察され,一方, PEI条件において MAPの低下は減弱していた( CON vs. PEI:-19±8 mmHg vs. -12±5 mmHg, P = 0.021).同様に,MCA Vm,PCA Vmも開始直後に有意な低下が観察され, PEI条件においてこれらの低下は減弱していた( MCA Vm, PCA Vm;P = 0.026,P = 0.002).これらの知見により,筋ポンプ作用によって誘発された心肺圧受容器反射が血圧を低下させ,それに伴い脳血流も低下させることが明らかとなった.したがって,心肺圧受容器反射は,運動開始直後の Qの増加に対して,脳の過灌流を防ぐ保護作用として働く可能性が示唆された.

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