ヒト身体の冗長自由度は運動制御を複雑にすると考えられている.しかし,ヒト制御系に内在するノイズを考慮すると,冗長自由度はノイズの影響を軽減させる方略を可能とし,運動遂行をむしろ簡単にしているかもしれない.本研究では,ダーツ課題を用いて,実験的な自由度の削減が通常の条件と比べて運動学習が遅延するという事例を示す.成人男女計21名を,肩関節を拘束する拘束群と対照群に無作為に割り付け,非利き腕ダーツ課題を20投×10セット行わせた.三次元動作計測装置を用いてダーツの到達点と上肢の運動学を測定した.対照群ではおよそ3セット目で到達点–目標間距離の短縮がプラトーとなったが拘束群ではこの短縮が遅延した.3セット目では拘束群 (0.135±0.026 m) で対照群よりも有意に到達点–目標間距離が長かった (0.099±0.018 m) .この結果は,運動構造を部分的に取り出すような分習法のような練習法は,むしろ目標指向型運動の学習を阻害してしまう可能性を示唆している.