抄録
【はじめに】超高齢化社会の到来により認知症高齢者の人口が増加しており,臨床場面においても認知症を有している入院患者を担当する機会を多く経験する.認知症患者の転帰先について検討した報告では,ADLの改善が乏しく,在宅復帰が困難となる可能性が示唆されている.しかし,重度の認知症患者を対象とした報告はない.本研究の目的は重度認知症患者を対象に,転帰先に影響を与える因子を検討する事である.【方法】対象は当院回リハ病棟に入院した患者のうち,入院時のMMSEが10点以下であり,入院前から自宅以外で生活をしていた場合,失語症を呈していた場合,意識障害を呈していた場合を除いた23名である.調査項目は転帰先,入退院時のM-FIMとC-FIM,在宅介護スコアとした.統計解析では,転帰先別に対象者を2群に分け,入退院時のM-FIM,とC-FIM,在宅介護スコアを独立変数とするロジスティック回帰分析を行った.また在宅介護スコアが選択された場合,在宅介護スコアの下位16項目を独立変数とするロジスティック回帰分析を行う事とした.危険率は5%未満を有意とした.【結果】23名のうち,自宅群は10名であり,非自宅群は13名であった.入退院時のM-FIMとC-FIM,在宅介護スコアを独立変数とするロジスティック回帰分析において抽出された項目は在宅介護スコアであった.在宅介護スコアが抽出されたため下位16項目を独立変数とするロジスティック実施した結果,介護者の介護意欲が抽出された.【考察】軽度認知症患者を対象とした報告ではADLの改善が乏しく,自宅復帰の可能性が困難となる可能性が示されている.重度認知症患者では軽度認知症患者と比較するとよりADLの改善が乏しく,見守りの時間や介助時間が増大することから,介護者の健康状態や介護環境に加え,介護者の介護意欲が重要な因子として抽出されたと考える.今後,自宅か否かを検討する場合はFIMだけではなく,主介護者の介護力を重点的に考慮する必要性があると考える.