道南医学会ジャーナル
Online ISSN : 2433-667X
5-FU投与中に急性心不全を発症した大腸癌の1例
田中 一光早坂 秀平久保 公利
著者情報
キーワード: 5−FU, 心毒性, 大腸癌
ジャーナル フリー

2023 年 6 巻 1 号 p. 58-61

詳細
抄録

症例は60歳代、女性。完全左脚ブロックで当院循環器科に通院していた。X-1年9月に直腸癌、多発肺転移、肝転移の診断で、腹腔鏡下低位前方切除術が施行された。RAS変異陽性であり同年10月よりmFOLFOX6+BEV療法が開始された。同月の心エコーではEF63%であった。X年1月にmFOLFOX6+BEV7コース目が開始されたが、day3の5−FU投与中に息切れ、胸痛、胸苦が出現した。心電図では完全左脚ブロック以外に明らかな変化を認めなかったが、心エコーでEF23%の心機能低下を認めた。CPK、トロポニンT等の心筋逸脱酵素の上昇を認めず、急性冠動脈疾患は否定的であった。またBNP169.5pg/ml、胸部レントゲンで心拡大、肺門影の増強を認めたために急性心不全と考えられた。5-FUによる薬剤性心機能障害を疑い、化学療法を中止し循環器科にコンサルトした。ニコランジル等で狭心症および心不全に対する薬剤加療を開始したところ胸部症状の改善が得られ、発症5日目にはEF42%まで心機能は改善した。2ヶ月後の待機的な冠動脈造影では、Ach負荷試験で冠攣縮性狭心症の所見を認めたが、明らかな冠動脈の狭窄は認めなかった。発症31日目よりIRI+BEV療法にレジメンを変更して治療を再開し、以後は症状の再燃を認めていない。アントラサイクリン系薬剤やトラスツズマブでの心毒性はよく知られているが、5-FUによる心機能障害は稀であり、その頻度は1.6%程度と報告されている。今回、大腸癌に対する5−FU投与中に急性心不全を来した1例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。

著者関連情報
© 2023 道南医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top