抄録
本総説では、Developmental Origins of Health and Disease,(DOHaD)学説の中でも特に胎児期の低栄養と出生後のCatch-up growthが肥満・生活習慣病発症の起源になるといういわゆるBaker仮説に着目した。胎児期の低栄養状態の代表で、一般に低出生体重児となる在胎週数に比して出生体重が小さいSmall-for-gestational age(SGA)児は、一般にこのBarker仮説にあてはまると考えられている。しかし、早産SGA児を診療していると異なる印象を持つ。早産SGA児は、正期産SGA児と比較して少なくとも6歳までBody mass indexが低値で推移することが報告されている。また我々は、在胎32週以下の早産SGA児が正期産SGA児と比較して高率にSGA性低身長症になることを報告した。これらから早産SGA児と正期産SGA児の表現型には違いがあり、早産SGA児は著明な肥満にならずとも生活習慣病を発症するリスクが高いのではないかという考えに至った。日本人の小児2型糖尿病では顕著な肥満を生じない非肥満型2型糖尿病の症例が比較的多く、我々も実臨床でこの低出生体重-非肥満型2型糖尿病を発症する患者が存在することを報告した。近年、未熟性の強い早産児が成人期に至るまでインスリン抵抗性を示すとの報告が散見され、その原因の一つとして早産・極低出生体重で出生した児が、正期産児に比べて除脂肪量(主に筋肉量)が成人期に至るまで少ないことが挙げられている。また、SGA児は、年齢、性別および身長の調整後でも、在胎週数相当の大きさであるAppropriate-for-gestational age児および在胎週数相当より大きいLarge-for-gestational age児の両方の小児と比較して、より高い中心性肥満を示すと報告されている。我が国では、超早産児の救命率が向上し、総出生数は減少しているが早産SGA児は減少していない。将来的に早産SGA児で出生した糖尿病の患者数は増加することが予想される。SGA児の一部(特に超早産児)はBarker仮説で提唱されている高度肥満にならなくても、内臓脂肪蓄積や除脂肪量が少ないことにより、2型糖尿病になりやすい可能性がある。