冬作オオムギにしばしばみられる生育後期自然治癒型Mg欠乏症は、基肥に用いるNH_4-Nの誘導によるものではないかという推定を検証することを目的に実験を行った。置換性Mgの乏しい黒ボク土壌を用い、N源についてNH_4-N系列とNO_3-N系列に分け、それぞれにMgの施用区と無施用区を設け、12月上旬よりオオムギのポット栽培試験を行って、つぎの結果と結論ならびに考察を得た。1)2月上旬頃から、NH_4・-Mg区の植物に、特徴的なMg欠乏クロロシスが現われ、3月下旬にかけて欠乏症の度合や生長の抑制が顕著になっていった。しかし、4月上旬になるとこの植物は緑化しはじめ、中旬から下旬にかけて急速に濃緑色となり、生長も大きく回復した。これと対照的にNO_3・-Mg区の植物はNH_4・-Mg区と同様著明なクロロシスの発現も生長抑制も示さなかった。2)生育の中間期(3月末日)には、NH_4・-Mg区の植物はNO_3・-Mg区のものよりMg含有率は明らかに低く、K含有率はむしろ高かった。しかし、成熟期にはMg含有率はNH_4・-Mg区のほうが若干高くなり、またこの区のポット当たりMg吸収量も、中間期以降きわめて高率な増加をみせた。Mg施用下でも、中間期におけるMg含有率はNH_4-N施用植物のほうが、NO_3-Nのものより低下していた。3)中間期のNH_4・-Mg区の土壌には、施用したN量の約65%に相当するNO_3-Nの存在が認められ、NH_4-NはNO_3-N系列における値と同程度の低いレベルになっていた。4)以上の結果から、この型のMg欠乏症はNH_4誘導のものであり、自然治癒は、低温期を経たのち硝化が進行し、NH_4-NがNO_3-Nに変化したことに基づくものと判定された。5)上記のことから類推して、寒冷条件下におけるイネ科牧草などの作物の無機栄養について、施用N質肥料の化学形態および土壌中におけるその化学形態の変化による影響という観点に立った研究の必要性に関して考察を加えた。