日本土壌肥料学雑誌
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津波により冠水した砂質水田における除塩に伴う塩化物イオン及びナトリウムイオンの挙動と交換性陽イオンへの影響
永沢 朋子 椎名 勇八槇 敦
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2017 年 87 巻 1 号 p. 15-21

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抄録

2011年3月に発生した東日本大震災の津波により冠水した千葉県九十九里沿岸部の砂質の水田(A,B及びC)において,代かき除塩に伴うCl-及びNa+の挙動と土壌養分への影響を調査した.

1)冠水により調査水田A,B,Cの作土のEC,Cl-,水溶性及び交換性Na+含量は,それぞれ211~480 mS m-1, 108.5~240.1 mmol kg-1, 64.7~137.0 mmol kg-1及び15.2~48.8 mmol kg-1と著しく高くなった.これらは,4~6回の代かき除塩により,それぞれ9~66 mS m-1, 1.3~16.7 mmol kg-1, 2.2~23.1 mmol kg-1及び1.8~12.0 mmol kg-1に低下した.また,交換性ナトリウム飽和度(ESP)は,除塩前が17~67%であったのに対して,代かき除塩後が2~18%に低下した.

2)代かき除塩後の交換性Ca2+,Mg2+及びK+含量は,それぞれ11.2~21.3, 5.7~10.7, 1.6~3.5 mmol kg-1であり,除塩前の各イオン含量に対して,Cl-及び水溶性及び交換性Na+が49~99%減少した.交換性Ca2+,Mg2+及びK+は,1~52%増加または3~37%減少した.

3)2012年3月のCl-及び総Na+含量(水溶性及び交換性の合計量)は,Aでは深さ0~75 cmでともに4.4 mmol kg-1以下と低かった.これに対して,B及びCでは,深さ0~30 cmがともに1.0~23.6 mmol kg-1, 深さ30~90 cmのCl-含量が2.4~29.6 mmol kg-1, Na+含量が6.1~31.4 mmol kg-1で,Cl-及び Na+はほぼ同時あるいはNa+が若干遅れて下方に移動することが認められた.

4)代かき除塩後に,中干しを行わず水稲を作付けた.その結果,A及びBの登熟歩合がそれぞれ60%及び58%と顕著に低く,精玄米重は,それぞれ436 gm-2及び412 g m-2で,例年収量より19及び28%少なかった.

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© 2017 一般社団法人 日本土壌肥料学会
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