日本土壌肥料学雑誌
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Print ISSN : 0029-0610
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緩効性肥料による水田からの窒素流出低減効果
箭田 佐衣子 江口 定夫林 暁嵐朝田 景蓮川 博之武久 邦彦
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2020 年 91 巻 5 号 p. 351-365

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抄録

緩効性肥料による水田からの窒素(N)流出低減効果を統合的に評価するため,国内水田の水稲作付け期間中のN収支とN流出負荷が実測された1970年以降の文献を収集・データベース(DB)化すると共に,速効性肥料の区(対照区)と緩効性肥料の区(緩効区)をセットで調査した試験のみを抜粋してメタ解析を行った.DB全体では,N流入負荷(NWin=用水N+降水N)に対するN流出負荷(NWout=表面・暗渠排水N+地下浸透N)の比(NWout/NWin)は,対照区の多くは>1で差引排出負荷(NWout−NWin)が正となる「汚濁型」,緩効区の多くは<1で差引排出負荷が負となる「浄化型」の水田であり,側条施肥や全量基肥の条件(無代かきを除く)では全てが「浄化型」であった.メタ解析の結果,緩効区のNWout/NWin比は対照区より有意に低く,その差は0.38と評価された.また,水田のN収支を構成する各Nフローについてのメタ解析では,緩効区のNWin及び水稲吸収Nは対照区とほぼ同等であり,N施用量及びNWoutはいずれも対照区の約7割と評価された.以上より,水田への緩効性肥料のN施用量を慣行の速効性肥料より約3割減肥し,全量基肥や側条施肥法を行うことで,水稲収量を維持したまま,水田からのNWoutを約3割削減でき,NWinよりもNWoutが少ない「浄化型」の水稲栽培が可能となる.

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© 2020 一般社団法人日本土壌肥料学会
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