日本土壌肥料学雑誌
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被覆尿素肥料からの窒素溶出速度における低温域を含めた温度依存性
原 嘉隆
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2020 年 91 巻 5 号 p. 366-373

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抄録

任意の時期に窒素を溶出させられる被覆尿素肥料は,水稲作で追肥を省略するために広く用いられる.その経時的な溶出に合う数理モデルは,水稲作を想定してアレニウス式等を基に開発され,溶出の推測に用いられる.数理モデルのパラメータの値も15–35°Cなど,水稲作を意識した温度域で得られた値が用いられている.近年,被覆尿素肥料は他作物でも用いられるが,低温となる冬作での数理モデルの適合性は詳しく検討されていない.そこで,低温を含み,これまでよりも広い温度域である5–40°Cにおいてポリオレフィン系樹脂の被覆尿素20銘柄の窒素溶出を調べたところ,数理モデルに当てはまり,溶出速度のパラメータはアレニウス式に精確に従った.さらに,温度依存性を示すパラメータである活性化エネルギーの値が全銘柄でほぼ一定となった.このことは,これまでより広い温度域で調べたことで,活性化エネルギーがより精確に得られたと考えられた.また,他の2つのパラメータ(溶出曲線の形状,溶出速度)も被覆尿素肥料の種類や溶出にかかる日数の目安である80%溶出日数との間に一定の関係がみられた.これらは数理モデルが低温となる冬作でも適合することを示す.そして,パラメータにみられた規則性はモデルの妥当性を示唆し,その規則性を用いれば,様々な種類が存在する被覆尿素肥料において,溶出推測のためのパラメータの値を求めることが容易となると期待される.

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© 2020 一般社団法人日本土壌肥料学会
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