2023 年 94 巻 3 号 p. 170-178
「土」は食糧生産の大切な場であるが,児童生徒の土に対する認識や関心は学年が上がるにつれて低下する傾向にある.居住地周辺からの土のある場所および学習指導要領改定毎の土の出現回数の減少より,土に対する関心の低下および教科書記述内容の希薄化が指摘されている.このような状況の中で,新学習指導要領小学校理科第4学年において,「土の粒」が登場し,小学校理科での土の教育の推進が期待される.さらに,近年の土に関するアンケート調査の自由記述の中に“土は怪我から守ってくれる存在”や“癒される存在”という回答が寄せられている事例を通じて,これを「土の癒しの効果(アメニティ)」と表現し,心へ働きかける新たな土の機能として検証されるべき重要な土壌教育上の課題であると指摘されるようになった.しかしながら,心理学的な観点から検証しようとする試みは少ない.そこで本研究では,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策により遠隔授業の受講を余儀なくされている大学生を対象に,市販製品を利用した泥団子作りの心理的効果について検証することとした.泥団子作製前後において,土に関する感情・認知については,土に触ることをポジティブに捉える方向へ変化し,土の特徴を“きれい”と評価する程度が上がり,“きたない”,“くさい”と評価する程度が低下した.泥団子を作製するという疑似的体験であっても,土への親しみが向上する傾向がみられた.