愛知県の露地野菜畑では,作物のカリウム(K)吸収量がK施肥量を上回る事例が報告されており,土壌中の交換性Kに加え,熱硝酸抽出法などで評価される鉱物に含まれるK(非交換態K)を吸収している可能性がある.そこで,愛知県の主要露地野菜畑における非交換態K量の規定要因および作物K吸収への寄与を検討した.愛知県露地野菜畑の非交換態K量は全国平均よりも多い傾向であり,特に非交換態K量が多い地域では母材が主に花崗岩類であった.鉱物組成を分析した結果,非交換態Kは粘土画分の雲母鉱物ではなく,砂画分・シルト画分を含んだ2 mm以下の雲母鉱物と正の相関関係を示しており,砂画分・シルト画分の粗粒な雲母鉱物が非交換態K量に寄与していることが示された.粗粒画分の雲母鉱物および非交換態K量が多い土壌の8割以上で,K飽和度が土壌診断基準の下限値(6.0–6.4%)を下回ったものの,作物が多量にKを吸収していた.以上より,非交換態KがK供給源として寄与した結果,K飽和度が土壌診断基準以下でも十分にK吸収量を確保できる可能性が考えられる.
「土」は食糧生産の大切な場であるが,児童生徒の土に対する認識や関心は学年が上がるにつれて低下する傾向にある.居住地周辺からの土のある場所および学習指導要領改定毎の土の出現回数の減少より,土に対する関心の低下および教科書記述内容の希薄化が指摘されている.このような状況の中で,新学習指導要領小学校理科第4学年において,「土の粒」が登場し,小学校理科での土の教育の推進が期待される.さらに,近年の土に関するアンケート調査の自由記述の中に“土は怪我から守ってくれる存在”や“癒される存在”という回答が寄せられている事例を通じて,これを「土の癒しの効果(アメニティ)」と表現し,心へ働きかける新たな土の機能として検証されるべき重要な土壌教育上の課題であると指摘されるようになった.しかしながら,心理学的な観点から検証しようとする試みは少ない.そこで本研究では,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策により遠隔授業の受講を余儀なくされている大学生を対象に,市販製品を利用した泥団子作りの心理的効果について検証することとした.泥団子作製前後において,土に関する感情・認知については,土に触ることをポジティブに捉える方向へ変化し,土の特徴を“きれい”と評価する程度が上がり,“きたない”,“くさい”と評価する程度が低下した.泥団子を作製するという疑似的体験であっても,土への親しみが向上する傾向がみられた.
酸性デタージェント可溶有機態窒素含量を入力変数として組み込んだ有機質資材の窒素無機化予測モデルについて,畑圃場における予測精度の検証試験を行った.有機質資材からの窒素無機化量を予測するモデルはこれまでにあったが,その予測値を圃場条件で経時的に検証した例はほとんどない.本研究では,圃場条件における予測値の経時的検証に加えて,圃場環境における予測モデルの誤差要因についても解析を行った.2作期,5資材の施用試験(合計10資材区)の結果,9資材区において施用初期に予測値の過小評価が見られた.菜種油かすや無機化率が高い鶏ふん堆肥では高い精度で予測できたが,無機化率が低い鶏ふん堆肥や,豚ぷん堆肥では,予測精度が劣る傾向がみられた.環境要因が予測誤差(予測値と溶脱補正前の実測値の差)に与える影響の解析では,「降雨による窒素溶脱の影響」に正の相関(偏回帰係数0.90),「施用後の日数の影響」に負の相関がみられた(偏回帰係数−0.12).「施用後の日数の影響」について,施用初期に予測値が実測値を過小評価したが,この現象は反応速度論的解析を用いた他のモデルを使用し無機化量を予測した際にも生じた.これらの点を踏まえて,本試験に用いた窒素無機化予測モデルは,施用初期に予測値の過小評価が見られるが,予測誤差に与える影響が大きい窒素溶脱の補正と併せることで,より正確に土壌中の資材由来無機態窒素量を予測できる可能性が示された.