抄録
伐木・製材の技術と道具に関して、近世以前の諸資料を調査した結果、次のように要約できる。
(1) 伐木用の主たる道具は、約2000年前より以前が石斧、それ以後が鉄斧(ヨキ)であったが、16世紀後半頃から鋸も併用されるようになったと考えられる。
(2) 原木を大はつりして荒角材をつくる道具は、近世にいたるまで、刃幅の広い縦斧(タツキ)が使われ続けたと推定される。
(3) 大木を製材する道具は、14世紀頃まで斧とクサビ(打割製材)であったが、15世紀頃から二人使いの製材鋸(オガ)が普及し、16世紀後半頃から一人使いの製材鋸(マエヒキ)が使われはじめたと考えられる。
(4) 小木を製材する道具は、14世紀頃まで鑿とクサビ(打割製材)であったが、15世紀頃から一人使いの製材鋸(カガリ)が使われるようになったと推定される。
(5) 伐木・製材の専門工人は、5世紀頃にコタクミからソマヒトが分化し、15世紀頃にソマヒトからオガヒキが、コタクミからコヒキ(カガリ使用)が、それぞれ分化し、16世紀後半頃にオガヒキからコヒキ(マエヒキ使用)が分化したと考えられる。