抄録
手作業による製材専門の職人を「木挽」と呼ぶ。木挽職は現在日本全国に10名ほどしか残っていない。今回、東京木場で働く木挽棟梁、林以一氏の作業現場の調査を行なった。 製材には主に前挽大鋸(まえびきおが)が使用され、鋸の目立てを繰り返しながら作業は進められる。目立ては重要で、材木を挽くのと同じくらいの時間が費やされる。古くは、原木を斜めに立て掛けて挽く「立て返し」という方法が行なわれていたが、現在では地面に横たえて挽く「すくい挽き」が主流になっている。木挽職による製材は、機械製材に比べて時間もコストもかかるが、機械の作業能力を越える寸法の材木への対応、木目の美しさ、どんな形にも挽きだせる無駄のなさ、などの点でその必要性は失われてはいない。しかし、後継者難に加え、前挽大鋸や目立て用の鑢を造る鍛冶がいなくなるなど、その存続は厳しい状況に置かれている。