抄録
本研究では,水位変動による補償点付近の微妙な光量の変化と水温に対するそれぞれの種に特有の成長反応の違いが,沈水植物の現存量や種組成に影響を及ぼしているという仮説を検証するため,光量,水温,栄養塩などが制御可能な実験システム(Imamoto et al. 2007)を用いて沈水植物を栽培し,その光と水温環境への形態および光合成特性における反応を明らかにすることで,水位変動に対する沈水植物の応答を推察した.主な知見を以下に示す.
(1)生存限界光量は,ササバモとコカナダモが高い値を,センニンモとクロモが低い値を示したことから,急激に水位が上昇した場合には,ササバモとコカナダモの光条件が生存限界以下となる可能性が示唆される.
(2)補償光量域は,ササバモ,ネジレモとコカナダモが高い値を,センニンモ,クロモとオオカナダモが低い値を示した.補償深度付近程度の深さの平らな湖底が広がる湖沼では,水位低下による影響で生育可能領域の拡大が期待される.このような場所では,
補償光量域の低いセンニンモ,クロモ,オオカナダモが増加する可能性が示唆される.
(3)RGRを24-96μmol/m2/sの光条件で比較すると,水温29℃ではクロモとコカナダモ,水温23℃ではコカナダモ,クロモとオオカナダモ,水温11~17℃ではオオカナダモ,コカナダモとセンニンモが高い値を示した.水位低下は,水位低下時期に最大現存量を示しかつRGRが高い種を増加させ,RGRが低い種や水位低下時期と最大現存量を示す時期が一致しない種は相対的に減少すると考えられることから,水位低下の時期によって増加する種が異なる可能性が示唆される.
(4)クロモ,オオカナダモとコカナダモは,シュートが水面付近に近づくとRGRの増加に大きな変化がみられないにもかかわらず伸長速度が低下した.一方,ササバモは,シュートの伸長に明瞭な変化が見られなかった.ササバモは異形葉を持っており,頂部が水面上まで達すると必要に応じて浮葉を展開する.他の沈水植物とは異なったシュートの伸長戦略をもつものと考えられる.