抄録
本研究では,日本の23河川を対象に,ヤナギ林の分布状況について資料調査を行ない,その地域性を考察した.まず,季節ごとの出水日数(1年を4区分したもの)とヤナギ属植物の出現種構成から対象河川を4グループ(G1-4)に区分した.その結果,G1は4-6月に融雪出水が発生し,かつ北方系のヤナギ属植物の種群となる北海道,G2は4-6月に融雪出水が発生し,かつ北方系と南方系のヤナギ属植物が混在する種群となる東北,G3は1-3月に融雪出水が発生し,かつ南方系のヤナギ属植物の種群となる日本海側の近畿や中国,G4は融雪出水が発生せず,かつ南方系のヤナギ属植物の種群となる関東,太平洋側の中部や近畿,四国,九州となった.次に,緩勾配区間(河床勾配1/5000-1/500)における河岸延長に占める河岸付近のヤナギ林,全ての樹林の分布している延長の割合についてグループ間の違いを比較した.その結果,ヤナギ林の樹林化割合は多い順に,G1で72%,G2で45%,G3で25%,G4で4%となった.ただしG2とG3との間に有意差はみられなかった.全ての樹林の樹林化割合はヤナギ林の樹林化割合と同様な傾向であったが,G1とG2,G2とG3,両者の間に有意差がみられなかった.最後に,緩勾配区間におけるヤナギ林の樹林化割合に与える流況の影響(季節ごとの出水日数,最大流量/平水流量,河床勾配)を検討した結果,4-6月の出水日数が正の影響,7-9月の出水日数が負の影響となった.これらのことから,日本のヤナギ属植物の出現種構成に着目した場合にはおおよそ3つの地域性があり,出水タイプを加味した場合にはおおよそ4つの地域性があることが明らかとなった.また,それら4つの地域間ではヤナギ林の樹林化割合が異なることが明らかとなった.このような地域特性は河畔林管理を考えるうえで重要な要素となる.