抄録
ダム湖における水質に関する代表的な課題のうち,富栄養化現象(植物プランクトンの消長現象)を解析する予測モデルの考え方と現状について概説した.ダム湖の植物プランクトン予測の手法は,長く検討がされてきていることから,基本的な考え方は概ね固まっているものである.実用上も技術的な蓄積がすでに様々に為されており,予測精度などは一定の水準まで達していると考えられる.しかし,昨今の社会的なものを含めた技術的要請により課題もある.近年のダムに関わる実務的な検討では,比較的入手や整理のしやすいデータを用いて行う簡易的な予測手法と,水文,気象,水質など種々のデータと生態系モデルを用いるシミュレーションによる予測手法の両者が多く用いられている.簡易予測手法は,統計モデルとも呼ばれる方法を用いるもので,代表的にはVollenweiderのリン負荷モデルがある.生態系モデルは,ダム湖内の流動解析と組み合わせて用いられ,窒素・リンなどの栄養塩の挙動と合わせて解析がなされる.植物プランクトン予測のこれからの検討課題としては,水質障害やアオコ発生に対する予測・評価の高度化と水質保全施設の効果表現の精度向上及び簡易予測手法の精度向上について取り上げ論じた.いずれも現在の実用上では,単に計算・予測精度を上げることと同時に,結果の説明責任の観点から望まれていることである.