応用生態工学
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11 巻, 2 号
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原著論文
  • 福嶋 悟, 皆川 朋子
    2008 年 11 巻 2 号 p. 123-132
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    To show effective measures against filamentous green algae that grow in abundance in regulated rivers, in-situ experiments on the effects of atmospheric exposure were carried out using communities of Spirogyra sp. and Cladophora sp. as subjects. In addition, the changes in biomass attributable to atmospheric exposure and discharge were compared. Morphological changes of the chloroplast occurred in most cells of Spirogyra sp. and Cladophora sp. with atmospheric exposure. The biomass of Spirogyra sp. communities decreased by about 90—98% in cases of one-day atmospheric exposure, three-day exposure, and discharge after three-day exposure. The latter case exhibited the greatest biomass decrease. It was the only case in which the ash free dry mass decreased. The biomass of Cladophora sp. communities decreased by 84% in both cases of discharge after one-day atmospheric exposure and three-day atmospheric exposure. In those cases, the ash free dry mass also decreased markedly after atmospheric exposure. Although the relative abundance of filaments of Cladophora sp. accounted for about 80% of the communities before atmospheric exposure, the relative abundance of other algae increased more than 75% after atmospheric exposure. Both filamentous green-algal communities were abundant after discharge, however they were decreased markedly by atmospheric exposure, suggesting that atmospheric exposure is an effective method for control of filamentous green algae in regulated rivers.
  • —リファレンスとの乖離度による評価—
    村上 まり恵, 黒崎 靖介, 中村 太士, 五道 仁実, 楯 慎一郎, 西 浩司, 樋村 正雄
    2008 年 11 巻 2 号 p. 133-152
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    本研究は,物理環境要素を用いた河川環境の簡便かつ総合的な評価を行うことを目的とし,人為改変の小さいリファレンスとの相違の程度(乖離度)によって任意の地点の評価を行った.「乖離度」とは,河川の物理環境を構成する要素を軸とした多次元空間上における対象サイトとリファレンスの距離と定義した.評価は,リーチスケールで実施した.評価する観点には「人為改変」「生息場の多様性」「河川及び氾濫原の構造」の3つを設定し,各観点を表す具体的な事象を指標として設定した.評価対象は,リファレンスの設定が容易な標津川流域の谷底平野を流下する区域とし,68の調査サイトを設定した.各調査サイトの物理環境は,イギリスで開発・実用化され,河川の物理環境を定量的に把握できる調査手法であるRHSを参考に,筆者らが開発した現地調査手法により把握した.設定した評価観点ごとの主成分分析結果を用いて対象区域を類型区分し,その結果から,最も人為改変が小さい特徴をもつ類型をリファレンスとした.各調査サイトの乖離度を算出した結果,リファレンスの類型に該当したサイトでは乖離度が小さかった.一方,市街地周辺を流下し,人為改変が大きく,淵・州の出現頻度をはじめとした生息場の多様性や蛇行度が小さいなど,複数の指標でリファレンスと異なる特徴を有するサイトでは乖離度が大きな値となった.これより,乖離度は概ねリファレンスとの相違の程度を表していると考えられ,本手法により評価者の主観が入ることなく,河川の物理環境の総合的な評価をより正確に行なうことができたと考える.本評価手法は対象区域に特化して設定したものではなく,また,生物指標による評価と比べて容易に広域な区間を対象にした評価が可能であることから,河川環境のいわば「集団検診」の手法として有用と考える.
  • 神奈川県酒匂川水系での検討
    林 義雄, 谷田 一三
    2008 年 11 巻 2 号 p. 153-159
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    ダム建設河川(神奈川県酒匂川)のヒゲナガカワトビケラ集団の遺伝的構造を,ミトコンドリア遺伝子(COI領域)を対象としたPCR-SSCP法により調査した.PCR-SSCP法のためのプライマーセット(増幅産物長160塩基)は,59個体のミトコンドリア遺伝子771塩基の配列から設計した.酒匂川とその近隣河川(相模川)の11地点より採集した330個体から,PCR-SSCP法による5つのSSCPタイプが認められた.SSCPタイプの頻度と多様度は,三保ダムを境界として,上流側と下流側(支流を含む)で明白に異なっていた.この結果は,三保ダムがヒゲナガカワトビケラの移動に対し,大きな障壁となっていることを示唆している.
  • 植村 碧, 谷口 智之, 河野 賢, 佐藤 政良
    2008 年 11 巻 2 号 p. 161-174
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    茨城県常総市報恩寺地区において,2004年から2006年の3年間,小排水路内植生に関する調査を行った.小排水路への植生侵入現象,植生侵入を規定する条件について考察した結果,以下の事が明らかになった.
    1.小排水路の3年間の植生分布をみると,群落の形成地点は安定しており,優占種,出現種にも大きな変化は見られなかった.また植生は小排水路内の上流部に多く,地区全体でも,支線排水路から離れた地点に植生が分布していた.
    2.2本の小排水路で植生があった地点すべてについて,水深,土砂堆積厚と植生の関係を測定した.その結果,多くの種が水深10cm以下に分布していた.植生を種ごとに見ると,水深と土砂堆積厚の特定の組み合わせ領域におおよそまとまって分布していた.
    3.水深,土砂堆積厚の組み合わせ条件に対する植生の平均被度をみると,平均被度の高い階級の土砂堆積厚は小排水路によって異なっていた.一方,水深に関しては15cm以下に平均被度の高い範囲があった.植生侵入には水深が規定的に影響していると推測された.
    4.植生侵入可能と思われる条件で植生が無い地点は,水深以外の要因が植生侵入を抑制していると考えられる.そこで,植生侵入に影響を及ぼす要因の一つとして考えられる埋土種子の有無を把握するため,小排水路と水田の土砂を採取し発芽試験に供した.その結果,植生侵入不可能と思われる条件で植生が無い地点でも,他の地点と比べ発芽本数が少ないわけではなく,水深の条件が植生侵入を制限していることが推測された.
    5.本地区では,2本の小排水路から導かれた水深が規定的であるという法則性によって,地区全体の植生の分布を理解できる.
事例研究
  • 松井 明
    2008 年 11 巻 2 号 p. 175-182
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    本研究は,新潟県岩船郡関川村に位置する大石ダムを有する大石川において,1994年4~12月にダムの下流河川および上流河川における底生動物群集を調査し,ダムが下流河川に生息する底生動物群集に及ぼす影響およびその要因を検討した.その結果,以下のことが明らかになった.
    1.ダム上流の底生動物群集の現存量は,カゲロウ目およびカワゲラ目が優占したのに対し,ダム下流ではトビケラ目が優占し,特に造網型トビケラ類のヒゲナガカワトビケラおよびチャバネヒゲナガカワトビケラの現存量が大きかった.
    2.ダム下流地点では,造網型のヒゲナガカワトビケラ,チャバネヒゲナガカワトビケラ,シマトビケラ科のいずれもが,上流地点と比較して生息密度が大きかった.
    3.ダム放流水口直下の地点では,夏季に河川水中の浮遊態有機物濃度の増加が観察され,これはダム湖からの植物プランクトンの流下によるものと推察された.また,この地点では夏季にヒゲナガカワトビケラ属若齢幼虫の顕著な増加が確認された.
    4.ダム湖から供給される植物プランクトンは,ダム下流域のヒゲナガカワトビケラ属の個体群に正の影響をもたらしている可能性がある.
  • 中島 淳, 江口 勝久, 乾 隆帝, 西田 高志, 中谷 祐也, 鬼倉 徳雄, 及川 信
    2008 年 11 巻 2 号 p. 183-193
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    宮崎県延岡市の五ヶ瀬川水系北川の河川感潮域に人工的に造成されたワンドにおいて,2001年から2006年にかけて,生物の定着状況について調査を行った.人工ワンドは,従来あった天然の既存ワンドが河川改修により失われるため,その代替環境として,その上流の河川敷を,間口50m,奥行き400mにわたって新たに掘削して造成されたものである.
    1.調査の結果,72種の魚類,12種のカニ類,7種の甲虫類が採集され,合計91種の生物の生息場所として機能していることが明らかとなった.
    2.ワンドの底層は年を追う毎に起伏が生じ,平坦に造成された底層は5年後には浅い場所と深い場所で約100cmもの差が生じていた.塩分躍層は,満潮時,干潮時ともに水面下1mより深い水深で生じていた.
    3.ワンドの奥部には泥干潟やコアマモ域が自然に生じ,それらの環境を好む魚類,カニ類,甲虫類が定着した.
    4.従来あった天然の旧ワンドと人工ワンドにおいて,夏季に出現した魚類種数に大きな違いはなく,人工ワンドが旧ワンドの代替環境として十分に機能しているものと考えられた.
    5.感潮域において生物多様性保全を目的とした人工ワンドを今後造成する際には,安定した塩分躍層が出来るように,干潮時でも1m以上の水深を確保する構造にすること,水際域や干潟が自然に出来るように,造成時に緩傾斜区間を多く配置すること,また,ヨシ植生域をなるべく残すこと,など多様な環境構造を創出することを意識して設計することが特に重要と考えられた.
総説
  • 生息環境の劣化プロセスと再生へのアプローチ
    根岸 淳二郎, 萱場 祐一, 塚原 幸治, 三輪 芳明
    2008 年 11 巻 2 号 p. 195-211
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    イシガイ目二枚貝 (Unionoida,イシガイ類) は世界各地の河川・湖沼に生息し世界では合計約1000種,国内では18種が報告されている.特定魚類が産卵母貝として必要とすること,またイシガイ類も特定魚類に寄生することが必要であることなどから生息環境の状態を示す有効な指標種として機能する.国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念され,約290種が報告されている北米ではその約70%程度の生息環境の劣化が危惧されている.わが国では,数種の地域個体群がすでに絶滅し,13種までが絶滅危惧種の指定を受けている.イシガイ類の生息環境劣化には直接的要因(個体採取)と間接的要因(河川改修など)の両者が考えられる.近年は外来種の侵入による悪影響が心配されている.これまでの国内外の研究から,国外で報告される主な生息環境が比較的規模の大きな河川であるのに対し,国内では農業用排水路のような強度に人為的影響を受けた環境がイシガイ類にとって重要な生息環境であることが分かる.このことは,わが国独自の生息環境に基づいた研究知見を蓄積する必要性を示している.岐阜県関市で観察された農業用排水路の改修前後で見られた環境の変化は,主に横断・縦断方向の両方向の環境多様性の著しい低下,およびイシガイ類の生息密度の明らかな低下であった.これらを改善するために,側方構造物および堰板の設置行われたが,水路の環境を改修以前のものに近づけるには効果的であった.効率的な生息場所保全や再生事業が行われるためには,過去の事業の工程および結果がその成功・失敗にかかわらず積極的に公開されるべきである.地域レベルでの活動の事例や成果等が広く共有されることが国土全体を視野にいれた生息場所保全に重要である.
  • 梅田 信, 和泉 恵之
    2008 年 11 巻 2 号 p. 213-224
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    ダム湖における水質に関する代表的な課題のうち,富栄養化現象(植物プランクトンの消長現象)を解析する予測モデルの考え方と現状について概説した.ダム湖の植物プランクトン予測の手法は,長く検討がされてきていることから,基本的な考え方は概ね固まっているものである.実用上も技術的な蓄積がすでに様々に為されており,予測精度などは一定の水準まで達していると考えられる.しかし,昨今の社会的なものを含めた技術的要請により課題もある.近年のダムに関わる実務的な検討では,比較的入手や整理のしやすいデータを用いて行う簡易的な予測手法と,水文,気象,水質など種々のデータと生態系モデルを用いるシミュレーションによる予測手法の両者が多く用いられている.簡易予測手法は,統計モデルとも呼ばれる方法を用いるもので,代表的にはVollenweiderのリン負荷モデルがある.生態系モデルは,ダム湖内の流動解析と組み合わせて用いられ,窒素・リンなどの栄養塩の挙動と合わせて解析がなされる.植物プランクトン予測のこれからの検討課題としては,水質障害やアオコ発生に対する予測・評価の高度化と水質保全施設の効果表現の精度向上及び簡易予測手法の精度向上について取り上げ論じた.いずれも現在の実用上では,単に計算・予測精度を上げることと同時に,結果の説明責任の観点から望まれていることである.
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