応用生態工学
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原著論文
石狩川におけるシロザケOncorhynchus ketaの遡上行動
―テレメトリーシステムの利用―
有賀 誠津田 裕一藤岡 紘本多 健太郎光永 靖三原 孝二宮下 和士
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2009 年 12 巻 2 号 p. 119-130

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抄録
石狩川は河口から150km以上離れた上川盆地までシロザケが大量に遡上する河川だったが,戦後の水質汚濁と頭首工建設による阻害により遡上が途絶えていた.本研究では,水質改善と魚道の設置により遡上環境が改善した石狩川において,シロザケの遡上確認と河川中・上流域における遡上行動を明らかにするためにテレメトリーシステムを用いた追跡調査を実施した.調査は2002~2004年にかけて魚道で捕獲した8個体のシロザケを用いて,それより上流の自然堤防,峡谷および盆地区間へと続く約60km区間において実施した.テレメトリーシステムによる追跡調査では,これまでシロザケの遡上確認ができなかった頭首工上流域において,2個体の自然堤防区間の遡上,3個体の盆地区間への遡上を確認し,最大17日間,50km以上に及ぶ遡上記録を得ることができた.シロザケの平均遡上速度は,自然堤防区間が19.5km/日,峡谷区間が14.8km/h,盆地区間は6.6km/hだった.盆地区間の平均遡上速度は他区間に比べて有意に低く,いずれも上流にいくほど低下した.盆地区間には,他の区間と異なり,河川改修が進んだ現在も産卵に必要な河床材料,水深,流速および伏流水が存在し,さらに湧水についても,石狩川を横断する不透水性の基盤の直上流で湧出する構造を有していた.本研究で得られたシロザケの遡上行動のパターンは,3つの区間の地形的な違いを反映していると考えられる.すなわち,自然堤防および峡谷区間では産卵関連行動をとることなく通路として遡上し,今もなお産卵適地が残る盆地区間では,産卵場所や繁殖相手の探索行動等の産卵関連行動により遡上速度が低下したものと推定される.今回の結果は,石狩川におけるシロザケの自然再生産の可能性を示唆するのもであるが,将来の安定的な回復には,さらに詳細な遡上・産卵行動等の解析が必要と考えられる.
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© 2009 応用生態工学会
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