抄録
私たちは,生息地の縮減および個体数の激減により絶滅が危惧されるようになったリュウキュウアユを対象に,保全プログラムの構築を目指して,産卵条件に関する現地調査を行った.残された唯一の生息地である奄美大島のなかでも,最大の生息地を提供する役勝川において,産卵に利用された水域は,河口から2.4km上流のリーチに限られた.産卵場周辺の水深,流速,基質サイズ,シルトの堆積状況を基に主成分分析を施したところ,産着卵は早瀬―平瀬移行帯を中心に分布することがわかった.産卵床の集まるエリア内の環境変数にロジスティック回帰分析を適用すると,産着卵の有無を説明する要因として底質硬度が抽出された.産卵床付近に多量に出現したオキナワヒゲナガカワトビケラは,営巣活動を通して礫床の固結化を促すことが知られており,同所的なリュウキュウアユの産卵を阻害する可能性が示唆される.水深および流速に関して産卵場の要件を満たす水域は,実質上,役勝川内の他のリーチからは見いだされなかった.また,河川規模が小さく,不定期にリュウキュウアユが利用する山間川では,産卵適地は成立しなかった.リュウキュウアユの保全は,ある程度の個体数が維持されている役勝川個体群を優先して実施すべきであり,産卵適地の回復は全滅の危険性を回避させる.河床の耕運は,スコップやクワなど簡単な道具さえあれば実行することができ,費用対効果の高い方法として推奨される.