応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
原著論文
琵琶湖流入河川知内川におけるビワマスの産卵生態および稚魚の浮上について
尾田 昌紀
著者情報
ジャーナル フリー

2014 年 16 巻 2 号 p. 65-76

詳細
抄録
近年では生態系をベースとする資源管理が求められるようになった.琵琶湖の固有種であり水産重要種であるビワマスは明治時代から栽培漁業の対象とされ種苗放流が行われてきた.ビワマスにおいて生態系をベースとした資源管理に資する基礎的知見を得るために,琵琶湖北西部に流入する知内川においてビワマスの産卵生態と稚魚の浮上に関する研究を行い,近縁種のサクラマスとの比較を行った.ビワマスの産卵期はサクラマスやその亜種であるサツキマスよりやや遅く,10 月~12 月までの 2 カ月間におよび産卵盛期は 11 月であった.地球温暖化に伴う河川水温上昇の影響を考慮すると,高水温の影響を受けやすい 10 月の産卵群よりも 12 月の晩期産卵群を保護するほうが資源保護上有益であると考えらる.ビワマス稚魚の浮上時期は,1 ~ 5 月まで長期間続き,浮上期間が短期間に集中するサクラマスとは異なる特性を示した.1970 年代や 1980 年代の知見と比べると,2010 年代のビワマス稚魚の浮上時期が早くなっており地球温暖化による河川水温上昇の影響と考えられる.ビワマスの産卵床の内部構造調査を行ったところ,2010 年の知内川のビワマス雌親魚は,少卵数の小さな産卵床を複数造成していることが推定された.これは流量変動による産卵床破壊の危険性や環境不適応による埋没卵の死滅の危険性を分散させるための戦術と考えられる.ビワマスの産卵環境はサクラマスのこれまでの知見の範囲内であり,サクラマスと類似した環境を産卵場として選択しているものと考えられる.
著者関連情報
© 2014 応用生態工学会
次の記事
feedback
Top