応用生態工学
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総説
高水敷掘削による氾濫原の再生は可能か?
~自然堤防帯を例として~
永山 滋也原田 守啓萱場 祐一
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2015 年 17 巻 2 号 p. 67-

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抄録

日本の平野部を流れる大河川では,治水目的の事業メニューの一つとして,高水敷の掘削が多く計画・実施されている.高水敷掘削は,洪水攪乱を受け易い低い土地を造成することから氾濫原環境の保全・再生と親和性が高い.本論では,高水敷掘削による氾濫原環境の保全・再生を進める上で重要な視座を得ることを目的とし,自然堤防帯(セグメント 2)に着目して,原生的氾濫原と河道内氾濫原(堤外地における氾濫原)を定義した上で,それらの構造と変遷,洪水攪乱に関連する 3 つの項目(冠水頻度,作用外力,土砂の堆積速度)について知見の整理と比較を行った.また,それを基に,高水敷掘削を手段とした河道内氾濫原の保全・再生に資する一つの管理手法を提案した.
 広大な後背湿地と自然堤防から成る原生的氾濫原は,連続堤の整備と土地利用の進展につれて,氾濫原としての機能を失った.そうした中,わずかながら“氾濫原的な環境”を残すことになったのが,堤外地に存在する河道内氾濫原であった.河道内氾濫原は,1970 年代以降,裸地状の砂州が維持されるほど頻繁に冠水や攪乱が生じていた動的なシステムから,澪筋が固定され樹林への遷移を許すほど安定的なシステムへと変容したことが,木曽川の事例から理解された.
 本川からの比高が拡大した高水敷を掘削する行為は,冠水頻度の面では,原生的氾濫原と同程度かそれ以上の状態に戻す操作であるが,そこに生じる作用外力と土砂の堆積速度は,原生的氾濫原のそれらよりはるかに大きい状況を創り出すと考えられた.つまり,原生的氾濫原が物理的に安定しているのとは対照的に,高水敷掘削によって再生・創出される河道内氾濫原は,地形変化に伴う環境の遷移が極めて速く,不安定な場であり,長期間の維持は困難であることが理解された.そこで,ゾーニングや森林管理における伐採回帰年の考え方を適用した循環的な管理手法を提案した.

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