応用生態工学
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原著論文
京都府鴨川下流域におけるアユ (Plecoglossus altivelis altivelis) の生息場所利用と成育状況
中川 光三品 達平竹門 康弘
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2015 年 18 巻 1 号 p. 53-63

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抄録
近年の京都府鴨川では, 天然アユの溯上が観察されるようになったが, 多くの落差工や堰堤がアユの溯上を妨げていることから, 仮設魚道による改善が試みられている. 本研究では, 鴨川の中下流部におけるアユの流程分布の現状を明らかにするために, 水中目視観察による調査をおこなった. また, 夏期には下流部の水温環境がアユの成育に適さない高水温となることから, その影響を把握するために, アユの生息場所利用状況, 摂餌行動, ならびに栄養状態の調査を行った. その結果, 天然遡上と考えられるアユは鴨川の最下流から約 15 km 上流まで観察され, 水温がアユの生息適温を大幅に超える下流部でも多くのアユが生息していることがわかった. 鴨川下流部では, 朝方に平瀬の流心で摂餌をしていたアユが昼間には湧水のある砂州尻ワンドに集合している現象が観察された. また, 下流部では午後の高水温時に胃内容物量が少なかったことから, 摂餌時間も中流部に比べて短いと推察された. さらに, 下流部のアユについては中流部よりも小さい個体の割合が高く, 大型個体では, 中流部の同サイズのものに比べて栄養状態が悪い傾向が見られた. これらの結果から, 鴨川下流部のアユは, 夏の高水温期に湧水が溜まる淵やワンドへ避難することで生息できているものの, その成長は中流部まで遡上できた個体に劣り, 河道の分断化がアユの生産性を低下させていると考えられる. したがって, 鴨川の天然アユ個体群を保全するためには, 上流への溯上を容易にする堰の切り欠きや魚道の設置などの対策とともに, 溯上できない個体の生存のために地下水の涵養や伏流水の湧出するワンド環境を保全する対策が必要である.
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© 2015 応用生態工学会
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